究極のエコロジカルタウン

Katzu

2013年03月25日 02:27

 ミャンマー中北部のシャン州に入るとなぜかほっとするのは、あの灼熱の大地から逃れ
高原に来た理由だけではない。少数民族シャン族はタイ族系で、ビルマ族とは違い、
どこか日本人的な懐かしさを感じる。ラオス北部のルアンパバンあたりからタイ北部の
チェンマイ、ミャンマーのシャン州にかけ同一の自然環境が、広大な文化圏を形成している。



 標高880mのインレー湖畔の港町ニャウンシュエの集落を歩く。
ここはフェリーの発着所で市街地に近く、乾季のこの時期は特に、水が少なく濁っている。
川沿いの家屋は高床式で、雨季の頃には、京都の伊根の舟屋のようになるのだろう。



ちょうど住宅が新築中だったが、その造りも日本古来の梁構造と同じである。



住宅裏の水辺には、たくさんの貝殻が貝塚のようにたまっていた。



市場では、コイ、フナ、ナマズ類の見慣れた魚が生きたまま売られている。
この湖が生活の糧を与え続けていることは明らかであった。



 船で湖に出ると、漁師が足で櫂を漕ぐ独特の漕法で漁をしている。



湖は、街を離れ中心部に行くほど水は澄み、浮草と水草のある湖面には
たくさんの鳥と漁船が集まり、漁をしている。



 集落間の橋を越え、湖畔の集落に入る。
住宅には衛星アンテナもあり、都市と変わらぬ都市的生活が行われている。



雨季は床下に水が来るようで、通路に車の入る必要はなく、
舟が交通機関のすべてである。



歩道橋が随一混雑する道路である。



公園はなく、子供は川で泳いで遊ぶ。



家事の洗い物はもちろん外で行う。
排便も同様である。人工規模100人程度では湖で浄化される。



集落内にゴミはあまり目立たなく、ゴミ捨て場は集落の端にまとめられている。



水の管理方法は、土手で川を作り、運河のように堰を設け落差をつけ、
水が農地へ流出入できるように制御されている。



土手の草刈り、維持修理は村人がまとまって行う。
素晴らしい農業利水土木システムである。



 船着き場から、竹林の道を抜けると、山の上に寺院が見えた。



頂上に駆け上がると、360度の景観が広がった。
同伴者は、カリフォルニアの渓谷とそっくりな地形だと言った。



先ほど来た水上集落の方向を見て驚いた。
そこは湖ではなく、緑の農村集落が広がっていたのである。
大きな湖の中の集落とばかり思っていたのだが、その湖が見えないのであった。



 湖上の街の中心には、ファウンドー ウン パヤ-の寺院がある。



ここは金箔が張り重なり、金の玉状になった仏像が有名である。



この寺院の護岸工事が行われていた。
砕石は湖岸の山から切り出され、舟で運ばれてくると言う。
土石は土地を維持するための貴重品である。
映画ウォーターワールドを思い出す。



 ここから乾季でも水が引かない水上集落に向かう。
この街は道路が水路であり、床下が水面である以外は普通の街と同じである。



電気は水上の電信柱で引き込まれている。



雑貨屋や飲食店もある。
交差点には案内標識や看板がある。



幹線水路から入る区画水路には、竹の交通島で一時停止を強いられる。



街のメインストリートを抜けると、緑の水面の水路に入った。
木の柱とうねが続き、トマトなどが栽培されている。



ここはWater Farmと呼ばれている水上農園である。
山の上から見えた緑とは、浮草や水草とこの水上農園であった。
遠くから見るこの集落周辺の姿は、普通の緑に囲まれた農村の姿であった。
地図の湖の形がおのおの違うのは、この乾季雨季で地形が変わるせいである。

夕暮れ前に、漁を終えた小舟は帆を張り、自然に集落に帰って行った。



 この集落は自然の営みの中で生活できる、最適なコミュニティ規模の、
環境負荷の最小な、理想的なエコロジカルタウンであろう。

この湖を見るまでは、不便な水上集落に住む理由がよく理解できなかった。
危険な土地を追われたこと以外にわかったことは、
農地に適さない陸地より、遥かに芳醇な農漁場であること、
陸地より洪水と干ばつの影響を受けない街の環境を、時間をかけて築いてきたこと、
集落の伝統を、コミュニティの中で守っていること、がわかってきた。

 この集落は、凡百の計画屋が、金と時間をかけて造り出したどんな街よりも、
集落のコンセプトの説得力、生活の必然性、自然との一体感、歴史の成熟度が違う。
震災後に体験した計画屋としての喪失感の答えの一つが、見つかった気がする。

しかし、この集落の環境は、周辺集落の人口増加、現在増えている水上コテージの
リゾート開発、地球環境の変化が、湖の水質を悪化させた時に、変貌してしまうことだろう。

集落周辺の濁った赤い水面と、湖中央の澄んだ青い水面の2つの違った水層のラインが
確認できるが、この割合が変化した時に、湖の環境変化が現れるだろう。
水が潤いと水質を取り戻す雨季に、再び、違う湖と集落の姿を見てみたいと思う。




 



関連記事