フェンスの向こうの日本

Katzu

2012年10月17日 08:54



 久し振りに、沖縄のビーチリゾートに滞在した。
知人との再会は楽しかったが、パック旅行で泊まっていた頃の
昔の沖縄のリゾートを思い出していた。
本土の観光客だった頃は、このプライベートビーチの内と外の
ギャップを感じないほど、当時は本当の沖縄が見えていなかった。

 1975年の沖縄海洋博以来、沖縄では海岸の私有化が進み、
有料駐車場だけでなく、有料の人工ビーチが増えた。
名護に近づくに従い、海の輝きが増すのは今も同じだが、
海に入れば、本来のサンゴ礁には程遠い環境になったと気付く。
ビーチネットは、溺れ防止のためでなくハブクラゲの防護用である。
ここ数年海水温が上昇するに従い、その生息数は増える傾向にある。



 ビーチチェアに寝転がると、白い砂にエメラルドの海、
外人の子供が通りすぎる風景は、ここはどこだったかを忘れてしまう。
アジアの大規模リゾート開発は、ワイキキをイメージしたものが多い。
しかし、数百メートル単位で私有地が区切られている沖縄の海岸では、
景観的にもあの解放感は到底望めない。

 本土資本のビーチ開発が、沖縄の海岸線を変えていった。
その人工ビーチの数は、40か所にも上る。
古いビーチでさえ、白砂を補充し整備を繰り返しており、
ほとんどのリゾートビーチは人工と言っても過言ではない。

では、その白い砂はどこから運ばれたのか。
以前、公園にサンゴ砂を敷くために、
沖縄の砂利採取組合に相談したことがあった。
答えは、美ら海水族館でさえフィリピンから輸入している程で、
県外運搬は禁止されている、という回答であった。
ちょうど自然保護運動の高まった時期に重なり、
監視されていたことも理由だが、何か腑に落ちないものがあった。

確かに、沖縄県の砂利採取要綱では、水深15mより浅い海底および
海岸でのサンゴ・海砂採取が禁止されている。
国内で販売されている白いサンゴ砂は、ほとんどがフィリピン産で
沖縄でも同様であるが、現実的に海砂は沖縄の組合業者により
年間100万㎥以上も掘り続け、県内で売買されている。
沖縄海岸国定公園内であっても、既得権により海砂として、
土木・建築用に現在も採取され続けている。
骨材の少ない沖縄では、即決で膨大な公共事業を施行する為には、
海砂の採取は不可欠とする理屈なのである。   


            沖縄海岸国定公園

 もともと離岸流のある海岸に人工的に砂を入れたエリアでは、
台風や雨水の流入で流れてしまい、海砂を補充し続けなければならない。
毎年、東京ドーム1杯分以上の土砂を海中でかきまぜ、
採った砂を波打ち際に置けばどうなるか。
土木の専門家でなくとも、海が濁ることはだれでも理解できる。

海の透明度が悪くなったのは、
開発による赤土の流出のためだけではない。



 海砂の採取場所は、本島・慶良間諸島間のチ―ビシ付近と
国定公園内のヤンバルの海岸付近である。
ともに生物多様性の海の環境を守るべきエリアである。

キャパシティのない環境に、キャパシティの限られた
大切な環境資源を充当するという矛盾が黙認される。

サンゴを再生させたり、海亀が来るように砂浜を掃除したり、
護岸に再生するサンゴを観察する活動などに対し、
自然環境に致命的な、相反する観光開発が繰り返される。

 ビーチリゾートは雇用を生むが、ローカルの利用者は限られる。
ランチブュッフェや限られた婚礼等の利用はあるが、
大多数のゲストはナイチャーと外国人である。
バブルの崩壊で破産したり、経営者の変わったホテルは数多いが、
地元志向に立った経営には至っていない。
代わりに宗教系、外資系の施設が増える傾向にある。



一般的なナイチャーの行動は、海辺で少し泳ぎ、バナナボートに乗り、
借りたビーチパラソルの下で、身体を乾かして間もなく、
写真を撮って、忙しくビーチから去って、ちゅら海水族館に向かう。
2時間後、ずっと浜辺で横になっている客は、我々が最後であった。

地元では、ビーチパーティーか釣り以外は、あまり海では遊ばないが、
高い宿泊費はもちろん、入場料を払いゲートをくぐるよりは、
誰もいないウッパマビーチを探すだろう。



 沖縄が本土に復帰して以来、明らかに沖縄らしくない環境が、
本土資本のフェンスの向こう側に造られていったのである。
大人たちは、海亀を海に放つ環境教育の場で
子供たちにどう説明すればいいのだろうか。


関連記事