935hPaの台風18号は宮古島を直撃し本土に向かい、九州・四国・本州・北海道すべてに上陸した初めての台風となった。沖縄本島には上陸せず甚大な被害はなかったが、台風の目から最短300km以上離れても、海は三日三晩しけ続け、強風と波の音で窓を開けて眠れなかった。
雨が止み海岸に出ると、離岸堤が隠れるくらいの大波が押し寄せ、防波堤より高い波濤が砕ける、普段からは想像できない光景が広がっていた。
次の朝、人工海浜の砂は沿岸道路まで覆い、海岸線も後退し公園の海浜地形も変わっていた。
多くの漂流物が打ちあがり、水面にまとまって漂っていた。
再生したサンゴ礁は、消波ブロックによる潜堤に守られているとはいえ、6~7mの高さの波を受け続けた結果、海底はどんな影響をうけたのであろう。
波が収まった日に砂浜から潜ってみた。
かき混ぜられた海水は濁りがあり、浮遊物も多かったが台風前に比べ海水温は低くなっていた。
岩礁の一部が砂で覆われ、多くのエダサンゴ類が折れ、漁網やロープが残ったサンゴに絡まっていた。
見た目には、白化の進んだテーブル状サンゴ、折れたエダサンゴ、砂に覆われたイソギンチャクなど、幼魚の群れも格段に減り壊滅的な状況に思えた。
その時、背後から大きなもののけの気配を感じた。一瞬ヒュッと音がして肌に風圧をうけ、体に無数の小魚がぶつかり追い抜いて行った。
見上げると何万匹というミジュン(カタクチイワシ)の群れだった。
あとからコバンアジとダツが追って行った。海人はこのことを良く知っていて、前日には浜から投網を投げていた。
自然のサンゴ礁の替わりに、人工リーフが入江を作りかろうじて稚魚を守っていた。
リーフ内は弱肉強食でサンクチュアリ(禁漁区)ではないが、サンゴは災害や敵の攻撃から守るシェルターとなり、生きた褐虫藻が共生する集落を構成している。
海水温の上昇で一変するリーフは、小さな地球環境そのものである。
1週間後、晴れて白い貝の波紋の残る浜には家族連れが戻り始めた。
海の中では、かぶった砂からはイソギンチャクが顔を出し、カクレクマノミが戻っていた。
人の持ち込んだものが自然を変え、それが原因で人の作ったものが壊れ、人工構造物を維持管理できなくなっているのが現在の都市の姿である。これだけ地球の気候変動に対応できない様子を見せつけられると、小さな造礁サンゴの自然治癒力の方が神がかって見えてしまう。