やんばるの海は、その森と相似して豊穣な生態系を有する。
湿気を含んだ空気は、山に雨をもたらし、豊かなやんばるの森を形成する。
谷川は養分の含んだ水とともに直接海に注ぎ込む。
浅瀬では生物が育ち、サンゴ礁は二酸化炭素を取り込む。
沖縄本島は、住宅地・ゴルフ場・農地の開発が進み、海の自然環境は失われて行ったが、
開発の行われていない北部の海は透明度も良く、魚影も濃くサンゴも生育している。
サンゴが死滅して久しい中南部の海岸では回復の兆しはあるが、群生地を探すのは容易ではない。
北部の海に入るとその違いは歴然で、複雑な自然地形と生物の多様性に驚いてしまう。
特に山域に開発・開墾地の少ない地域は、東海岸は平良湾以北、西海岸は名護市の羽地湾以北が、
赤土や農薬による環境悪化の影響やオニヒトデの発生も少ない。
辺戸岬近い茅打ちバンタと呼ばれる岩礁付近では、
海人が大きな魚を突き、丁度上がってきたところだった。
エントリー場所を聞き、海岸線を北に歩き岩場を超えると、
そこの入り江は、色とりどりのサンゴが光り輝く海だった。
素潜りで海底に潜り、かけ上がりのサンゴ畑を過ぎると、
リーフはすぐにドロップオフになり、グランブルーの世界が広がっている。
透明度も良く、海底から見上げると、
太陽と青空と雲をバックに、稚魚の群れが通り過ぎて行った。
魚影も濃く、ドロップオフの下からは多くの魚が湧いてきた。
岬の東側の太平洋岸は少し違った様子を見せる。
反対側の伊佐浜は、サンゴ礁が発達していたが、現在は岩礁となり
リーフエッジ付近は入り組んだ地形で、波が打ち付け水流がある。
岩にハナヤサイサンゴが張り付き、コブシメや大型の魚類が訪れる。
辺戸名の海岸はサンゴの白浜で、礁湖内にサンゴが発達していたことは
容易に推測できるが、一度打撃を受けたサンゴは回復に向かっていた。
浅瀬の藻類の砂地を行くと、白化したサンゴがあり魚類は少ない。
岸から200mほど先のリーフ近くに行くと、水深3mほどのところに
突然色とりどりの小型の卓上サンゴが現れ驚いてしまう。
すでに本島では珍しい光景であるが、なぜか魚が少ない。
良く見ると、多くのサンゴが白化しているのであった。
8月に入ってからの沖縄名護の平均気温は29.8℃で、
観測史上最も高い値となる可能性が高い。
降水量は40mmと例年の10%に満たず、やんばるの森の貯水ダムは
西日本ほどではないが、貯水率が50%を切るダムも多い。
ダムには、本来の谷川の様に自浄しながら養分を運び、水温を調整する機能がない。
この影響もあり、リーフ内の海水温は30℃を超える日が続いた。
これは、1998年に起きた全世界的なサンゴの白化現象の状況に似ている。
リーフ内の小魚は流れの速い海域か、深く温度の低い水深に行ったのだろうか。
リーフエッジ近くの水深5m位のかけ上がりでは、サンゴの白化の影響はまだ少ない。
沖縄の海の姿の変貌に落胆し続け、もう潜りたくないと思ったあの時以来、
ここ10年ほどはサンゴ礁の再生の兆しは確かにあった。
地球環境の変化の振幅が大きくなり、自然に接する感動と落胆と希望が、
交互に繰り返されるスパンが短くなってきた。
元に戻ることは容易ではないが、同じ想いを繰り返したくない、
残しておきたい、少なくとも記憶にとどめておきたい。