沖縄を訪れる観光客はまもなく年間1,000万人に達し、数字上は海南島、ハワイに並ぶ世界的な海洋リゾート地になることが確実視されている。特に海外からの観光客が増え、沖縄の日常生活の中にも、中国語もしくは英語の会話が聞こえてこない日は少ない。観光地ではすでに大半が外国人だから当然ではあるが、ここ数年来マンションや街角やスーパーでも聞こえてくる。
当初は違和感があったが、グローバル化が進んだ東南アジアの他の大都市と比べれば、むしろこれが当たり前である気がしてくる。
先日、関西で観光ボランティアを兼ねるTさんと備瀬のワルミバンタに出かけた。海を割くモーゼの十戒を思わせるようなこの景観ポイントは、半年前まで知らなかった。それもそのはず、狭い道路奥の集落の御嶽であったのだが、いつの間にかGoogleMapにも載っていて観光客が訪れ始めていた。昨年、自転車で探して立ち寄ってみたが徐々に観光客が増え、今回は5台ほどの駐車場は満杯でピストン送迎するほどの賑わいだった。
彼は外国人グループに次々に声をかけていった。半分くらいは中国人・台湾人・タイ人で、彼らはSNSでここを知ったらしくパワーストーンと言われる石に手をかざしていた。
確かに中華系の人は風水や運気を重んじる人が多く、団体のツアーガイドがこの類のストーリーを作るケースはよくあったが、今は個人旅行が増えSNSで旅情報は拡散されていく。撮影するポジションを教えてあげると歓声を上げ、日本人を含め順番待ちするほどになった。
彼らは少なくとも日本に興味を持って、好き好んで来ているのだから、これからリピーターになるように話を聞いてあげている、と言う彼の姿勢は正しい。
現在、日本に来ている中国人は、上から10%の所得層を対象にその10%の約1,000万人が来ている程度なので、統計学上はこれから100倍のインバウンド効果があるという計算になる。
しかし、海外で観光客同士が一緒に盛り上げる姿に接するうち、このまま国内で海外観光客が増えても打ち解けられず、何か殺伐とした営利関係だけが進んで行っていいのだろうか。閉塞的な日本の慣習、日中関係、日韓関係、テロ等準備罪の施行がそれを邪魔することも確かだが、いびつな一方通行には違和感を感じる。
インバウンドが浸透しないのは、アウトバウンドの経験不足によるものである。
最近、アジアの若者達に接して感じるのは、かつての優越感どころかその態度と国際感覚に驚いてしまう。年寄りばかりの日本は間もなくおいて行かれるというのは本心で、危機感さえ感じている。だから『ウェルカムでインバウンド』だけでは片手間で、『相手を知るためのアウトバウンド』が必要なのである。
日本人の海外への旅行者数は年間1,600万人で、20年前からあまり変わらない。その内容は、個人旅行が増えたとはいえ、依然として日本人向けパッケージツアーが多く、業者がトラブルを避けるためにローカルに接する機会も少ない。これからは団塊世代の個人型旅行の需要が拡大し、アウトバウンド効果が予想できるが、むしろ重要なのは若者の方で、外的志向が助長されなければ、ますますアジアからも置いて行かれるのは大人以上に深刻だ。
沖縄にいると次の時代のアジアの姿がおぼろげに見えてくる。
昨日、古宇利大橋の上で、のんびり歩くカップルがいた。珍しく英語の通じない韓国の若者で、代わりに『ガンバレ』と言って送り出してくれた。海外で出会った韓国人の多くは高学歴で英語が堪能だったが、日本以上に学歴社会の韓国では大多数の若者は生活が厳しく、近くの南の沖縄にハネムーンに来たという構図が浮かんでくる。