環境をテーマにした小説の中で最も有名なのは、
レイチェルカーソンの「
沈黙の春」である。
この小説は農薬の公害問題をテーマに、
科学万能の考え方に警鐘を鳴らした作品であった。
日本では有吉佐和子の1974年の小説「
複合汚染」がこれに類する。
その約40年前に書かれた宮沢賢治の「
グスコーブドリの伝記」は、
環境問題を扱ったSF童話である。
少年時代は、ジュールヴェルヌやポーのSF小説をよく読んだものだが、
彼の作品は、この西洋の科学万能の作品とは一線を画す、
日本的で人間的な、現代のSFアニメに通じるような印象深い童話が多かった。
この童話には、冷害、旱魃、飢饉、病害、汚染、地震、火山、潮汐発電所、
熱気球、二酸化炭素ガス、温暖化という環境のキーワードがちりばめられている。
この先駆的な科学知識と、彼の育った岩手の自然風景、理想郷イーハトーブの
シュールな世界に、故郷を助ける少年の自己犠牲を描いた童話となった。
これは他の童話によく見られる残酷な悲劇でもあるが、死を美化したものではない。
あらすじの展開は理路整然と解り易い。
現在の科学技術と自然災害との関係、解決の方法論と、
ヒューマン的な完結の仕方を端的に表している。
80年経った現在、科学の裏付けは変わってきた。
例えば潮汐発電に関しては、1960年代に海外で実用化された。
しかし、日本では繰り返し実験されてきたものの、
海面の干満の差が少ないため、普及に至っていない。
人工降雨については、中国が最も多く行っているが、
むしろ国境を越えた大気汚染が危惧されている。
日本での研究は進んでいない。
人工噴火により、大量の二酸化炭素を発生させ、温室効果で冷害を防ぐという方法は、
逆説的ではあるが、人間がもたらした現在の地球環境に似ている。
そして最後に、映画ハルマゲドンのラストシーンのように、
最後のスイッチを押すため、主人公が一人火山島カルボナ―ドに残る。
予告映像
当時、宮沢賢治がこのような見識を持っていたことにも驚かされるが、
北国の岩手の大地にしっかりと根付いた、彼の愛郷心と情熱が感じられる。
そして、津波で流された島越駅が、カルボナ―ド駅と呼ばれた由来が、
唯一残された石碑に
言霊として残った。
3,000㎡近い駅舎用地は、地元有志がら無償提供されたことが刻まれている。