日本人の求めるシャングリラ

Katzu

2012年09月09日 03:15



 中国の南部からパキスタン北部にかけて、
シャングリラ(理想郷)伝説が残る。
雲南省には同じ名の都市があるが、
現実的に日本人が、住むのに理想的な都市はあるのだろうか。
海外では日本人が住みやすい環境は少ない。
日本人は類まれな厳しく変化する、独特な自然環境で育っているので、
大陸・海洋性の変わらぬ環境に耐えられないか、飽きてしまう。



 海外で暮らす人達から、タイ北部のチェンマイが
住みやすいらしいという話を何度も聞いた。
チェンマイはタイ北部、バンコクの北600kmの位置にある。
14世紀、ランナー王朝によって遷都された。
標高300mほどの盆地で、周囲には2,000m級の山が連なる。
長野あたりの風景を思い出す。
それほど蒸し暑くなく、冬期の避寒地には最適である。
旧市街地は、1辺1.5kmの堀と城壁によって構成されている。
仏教寺院も多く、タイの古都と言われる所以である。
郊外は田園が広がり野菜・フルーツの種類も豊富だ。
左通行の車で1時間ほど行くと温泉などもある。
このような日本的なイメージが作れるので、
日本人観光だけでなく、住居提供のビジネスも始まっている。
日本人による住宅地開発が起きてもおかしくない。



 街づくりに目をやると、史跡名勝の多い旧市内の低層住商業地域に対し、
郊外は高層建築も見られるものの、景観整備も意識した建築物が多い。



しかし、都市人口が山形市と同じ24万人を越え、
車の数も想像以上に多く、都市生活には車が必要である。
旧市内はナイトバザールなどもあり、一見楽しそうに過せそうだが、
日常の買物は郊外にでる必要がある。



旧市街地の外は生活環境、その他安全・衛星面で不安が残る。
それは、汚濁したピン川の周辺を見れば一目瞭然である。



北のバラと呼ばれる古都チェンマイではあるが、
シャングリラはもっと未開の北部にあるだろう。



 都市の形態は、人口が10万人を越えると大きく変化する。
この時点で多くの都市が環境問題を抱え、公共投資が急がれつつ、
開発と保全とのバランスをとるのが難しい。
せいぜい1万人規模の町が丁度よいサイズで、
必要最小限の都市機能があり、集落的な一体感もある。



 ラオスのルアンパバーンは、緑に囲まれた川沿いの町で、
朝は托鉢が行われ町は、お香と釜を焚く煙があちこちから立ち昇る。
車は増えているものの、居住区域には小路が生活道路となり、
朝市や日常通行に利用されている。



川に伸びる緑道などは、計画者が意図的に創ったような、
洒落たプライベートの雰囲気さえある。





これには、もうひとつ理由がある。
この国はフランスの統治時代もあり、ヨーロッパの生活様式も残り、
旅行者用に新たに造られたヴィラも連なる。
イギリス人がここを行きたい都市の一番に挙げた理由は、
自然・文化・種族の伝統が、バランスよく生きづく町であることである。
農村コミュニティ、仏教にもとづく規律、河川と丘陵風景などが
日本人の心を動かすとすれば、ここもシャングリラの一つかもしれない。



 ただ、ここには海がない。
海彦・山彦を標榜する日本人にとっては、
海がないのは魅力が半減するのに等しい。
福島県の浜通り地方のような海に近い丘陵地が、
日本人の心の理想郷だったのかもしれない。

関連記事