インドシナの橋づくり

Katzu

2016年03月07日 13:31


          インワ付近

水を制する者は国を制する。
橋を制する者は地域を制する。
インドシナは川が文化の交流、生活の物流の中心を担ってきた。
現在も交通施設として通勤通学・観光・物流で利用されている。


     イラワジ川マンダレー付近

良質な骨材の少ない河口のヤンゴン方面へ、毎日マンダレーから
人力による骨材の搬入が、安価な貨物船により行われている。
都市の拡大に伴い戦略的な意味において、地域が発展するために
インフラ結節点としての橋の役割が重要となる。


          インワ鉄橋

先の大戦では橋を巡る攻防が各地で展開され、戦略的に急いだ
クワイ川鉄橋、日本軍の侵攻を防ぐため一度爆破されたインワ鉄橋
日本軍の攻撃に耐えたと言われるゴッティ鉄橋など、
歴史的にも名橋と呼ぶにふさわしい橋が多く残る。
つい最近まで橋は軍事施設として写真を撮ることもできなかった。


         ゴッティ鉄橋

一方で地球環境の変化は毎年河川の氾濫を引き起こし、
至る所で橋は流され仮復旧工事が進行している。


         モンユワ付近

ミャンマー各地で住民が早急に望むインフラ整備は、
高速道路や高速鉄道、工業団地ではなく橋梁なのである。
アジアのODA事業による様々なインフラ整備を見てきたが、
最も印象的かつ効果的な日本の海外支援工事は橋梁であろう。


    ゴールデントライアングル合流地点


現在進む橋梁工事の現場を見ると、危なっかしい場面に遭遇する。
もともと中国資本の支配する中北部は中国製の重機が動きまわり
日本とは比較できない建設環境にある。


         ティーボー市内

壊れた橋台に木の支承で調整した木床板の上を大型トラックが走る。




工事脇の食堂は埃まみれでも営業を続け、ズボンと手さえ汚れる。




足場もなく配筋も心配だが、橋台番号だけは大きく表示されている。




橋のメンテナンスは、自分で行い補修することが基本にある。
個人の農道だけでなく市道クラスでも多くの木橋に遭遇する。




中でも最も印象的なのがアマラプラのウーペイン橋であった。
世界一長い木橋と言われるこの橋は160年前に造られ、
イラワジ川の氾濫に耐え、自然の調整池のため奇跡的に残された。


          ウーペイン橋

この橋の素晴らしさは、人のぬくもりを感じる生きた橋であるからだ。
夕方になると、隣の仏教都アマラプラから寺院にむかう僧侶達、
漁民、通勤通学客、市民、観光客、行商人らでごった返す。


         
夕焼けの美しさと相まってこの世で最も美しい人の橋であろう。
一部コンクリートを除き、木床板で車の通行は禁止されている。
現在維持管理はマンダレー管区が行っているが、もともと個人で
架けた橋で、今でも人々にいかに愛されているかがわかる。


          インレー湖

インドシナの生活に橋は身近で必要不可欠な存在なのである。
住民は橋を自分達で造り管理しているという場面に遭遇した。
ティーボーのシャン族の集落に向かう一本道。
行きかう人が来訪者に笑顔で挨拶をかわすすばらしい集落だが、
村の入口の水路に、スコップを持った男たちが大勢集まっている。



橋が壊れ村民総出で隣に新しい橋?を造っている最中だった。
砕石基礎もなく橋の高さも現況より低い。
せめて骨材を敷かなければ仮設にもならないだろうと思いちょっと
声をかけたが、リーダーに悪いと思いその場を立ち去った。



次の日気になり立ち寄ると、案の定、床板らしきものは既に壊れ、
業者が耕運機で栗石とコンクリート製品を搬入していた。
杭と思われたものは分厚く短いRC管で、話を聞くと暗渠にするという。
恐らく農民たちが業者に頼む前に自分たちで何とか直そうとしたのか、
あるいは、仮設工事だけを住民でやろうとしたのかもしれない。
この工法にも異論はあるが、自分たちで何とか維持しようという
農民の意思が嬉しく、ほのぼのした気分になった。


          マイイットン川

本来のインフラ整備とはこうあるべきだ。
利便性優先の費用対効果の判断で、途上国の伝統システムを
変える見かけだけの橋梁整備だけはやめてほしいと願う。



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