震災復興のスピードと課題

Katzu

2012年10月31日 13:46

 震災後1年半が経つが、現地の復興はどの程度進んだのだろう。
最も復旧工事の進む宮城県を縦断した。
マスコミが報じた復興バブルよりも、混乱の中の復旧工事から
ようやく復興事業へ動き出したにすぎないという印象を持った。
一般の人の印象は、NHKで放送する程度で、関心は薄らいでいく。


              女川町

 宮城県内のがれき処理の大筋の道筋はついたと言われる。
当初最終処分場で処理すべきがれきは77万トンであったが、
最終的に4万トンに圧縮されることとなった。
その理由はがれきの処理を隣接県で分担しつつ、残りの多くは、
津波危険区域の盛土埋め立てに活用できる見通しだという。
大変結構な話であるが、一つ気にかかることがある。
がれきを盛土材に使用した場合、よほど分別し細分しない限り、
土に空隙が生じ、圧密沈下だけで締め固まらない。
それ以前に、大量の土砂が流出し、海の環境に多大な影響を与える。
今まで開発指導要綱や標準仕様書で指導されてきた、50cm以下の
路床材の規定は守られるのだろうか。

簡単に地盤嵩上げと言っても、この地殻の不安定な現在の日本の状況で、
数百万㎥単位で山を削り、海岸沿いに埋め立てたらどうなるだろうか。
広域盛土は1つの流域で高さ5mで、せいぜい10ha,以内に抑えるべきだろう。
幹線道路盛土についても同様である。


            石巻市南浜町

 事業化の進展は、震災後に拡充された防災集団移転促進事業(防集事業)
津波復興拠点整備事業と、従来の土地区画整理事業が立ち上がろうとしている。
素人目にはなぜ早く住宅建設が進まないのか、不思議に思われるかもしれない。
災害公営住宅のように土地・建物を、新たに一体的に開発するのは早いが、
個人の宅地を整備し直すのは時間と手間がかかる。
区画整理を選択した場合は、事業同意が成されてから、現況調査、権利調査
から始まり権利の確定まで最低5年を要する。
現法規に照らした防集事業以上の、既成法規を変える事業は拡充できなかった。
空間区画整理の提案もツイン区画整理か、防集事業とのリンク
というように形を変えた。

個人的には、数百年集落として機能するものを作る訳なので、
意見を十分今のうちに重ねた方がいいと考えたい。
最終的には全員の合意により事業は完了するので、
問題は先送りすればするほど結果的に成就できない。


             名取市閖上地区

 各都市の策定された復旧計画の内容を鑑みると、
残念ながら、当初盛んに議論された東北らしい環境共生型街づくり、
スマートシティ、コンパクトシティなどは言葉にこそあれ、反映されていない。
できた計画は、高盛土、住宅開発、区画整理と、従来のシステム、
手法、利権となんら変わらないことが残念でならない。
住民と目指すべき街づくりを、共感しながら話し合って理解しても、
生活をつなぎとめる被災者が主体的に動けるはずもなく、
ハードな部分は、国交省、地方公共団体、コンサルの作るプランに
迎合せざるをえなかったというのが悲しい。
国道の高さがようやく決まり、実質的な街づくりが
そこからスタートするという従来の悪い例もある。


              女川町

 多くの津波危険区域の土地利用は、現在は荒地として放置されている。
事業上仕方ない面はあるが、震災以降の自然災害により、
明らかに公共施設の崩壊が進んだ箇所を多く見かけた。
石巻バイパスの松は枯渇のためかすべて無くなっていた。
息が苦しくなるほど腐敗臭があった周辺は
落ち着きを取り戻しているかに見える。


             石巻バイパス

 集団移転がまとまらない地区の復興計画は、
多重防御策を謳っているが、逃れの案に思える。
破壊された臨港防波堤や、遮った仙台東部道路にしても、
津波を遅らせた効果はあったわけだが、
人間のできることはこの程度なのだろうか。
多重防御策が仇となった田老地区の例もある。
防御線までの距離と交通計画で検証済み、という解答では不十分である。
海岸線に近い集落の多重防御は、大きなリスクを伴うことを
もう一度理解し確認すべきだろう。


              

 農漁業のダメージは計り知れない。
津波地域の水田の多くはまだ土の入れ替えが行われていない。


              仙台市若林区

 漁業に至っては、水揚げと一部の港湾施設で再生が始まったばかりで
あるが、もとの漁場の再生にはまだまだ時間がかかる。


              東松島市野蒜

 全体的な公共事業の遅れが指摘されている。
仙台市の場合工事入札不調が30%、石巻市にいたっては50%となっている。
その原因は、資材の高騰と技術者、作業員の不足である。
資材不足はコンクリートの基本資材が不足気味なのが響いている。
現場で計画・設計をする知人に話を聞くと、
こと技術者に関しては、人事の移動が激しくどのコンサルも
東北支店に配属が集中している。
仕事が回転しないのは、権利現況調査が膨大であることと、
数年前ジリ貧にあった開発系の若い土木系技術者が少ないことである。

 福島県の状況は、20km以内の警戒区域を除き、空間線量は
1μsv/h以下になっているが、未だ線量が高く、
除染を計画的に進めることが必要である。
福島の復興に日本の未来が掛かっているはずなのに、
英知と人力と援助の心が集約できていない。

街づくりは時間をかけて取り組むべきで、
動き出すまで1年はかかると想定していたが、
国政の事情や既存のシステムに迎合するために
この1年半が失われたとすれば、
復興の遅延よりもっと悪い方向に向かったことになる。



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