南の島のLRT計画

Katzu

2012年07月03日 23:05

 南洋の島でLRTを提案した男がいた。
その島は、美しい海と島々の観光が産業の島国の中心地である。
たった2万人の島であるが、幹線道路はよく渋滞した。
その対策として、新たなバイパスを北のサンゴ礁を
埋め立て建設する案が浮上していた。
島は日本の中古車と安い税金・ガソリン、ODAによるインフラ整備により、
車の利用率は80%を超えていた。
車の所有率は日本より高く、人々は近所に行くにも車を使い、
公共交通機関はない。
2万人の島に2万台の車が街の中心に集中するのである。
排気ガス濃度は日本の都市より高い。
地形的な制約もあり、島内に新しい幹線道路の建設は困難であった。



 バイパスの起点にあるリゾート計画は、日本のあるコンサルタントの業務で、
市街地の国道建設も日本のゼネコン、日本の外部機関の
調査報告にもこのルートが推奨されていた。
環境保護局の審査を受ける前に、計画が動き出そうとした。

 海中に道路を土手のように築く方法は、
日本の諫早湾や金武湾と同じく、海流を寸断する。
リーフだけでなく、沿岸のマングローブ林への影響は必至であろう。
景観整備の面から橋梁もデザイン的に検討してみたが、
それ以前に橋長4.5kmの橋梁建設は現実味がなかった。



 計画の見直しは意外な所から見つかった。
将来交通量を配分すると、バイパスを新設しても、
通過交通が少ないために効果が薄いことが解析できた。
結論的には、将来交通の増加に対し公共交通機関を導入することで、
ピーク時の渋滞が解消できることがわかった。

ステップ1 公共バスの運行
ステップ2 自転車歩行者空間の創出
ステップ3 緊急避難路の計画
ステップ4 LRT計画

 ステップ4は、環境計画と観光計画を結びつけた20年後の目標であった。
CO2排出取引を見据えた計画の意義と、費用対効果も検討した。
欧州でのLRTの最新の事情を視察して、実現の可能性を探った。
なにより先に、健全な都市の育成と環境維持とのバランスを図る必要があった。
本心は、人の関心をリーフロードからLRTに向ける思惑があった。



 委員会の提案では、このコンセプトは受け入れられたが、
LRT計画への反応は意外に冷やかだった。
反応したのは、欧米知識人の一部と、ある欧州のLRTメーカーだけだった。
島民は、たぶん乗らないと思う、というのが本音だった。
車なら雨が降っても濡れず、帰りに海岸に寄ることも自由にできる。
向かいの銀行にさえ車で行くほどである。
公共バスの導入に一度失敗しているのもその理由だった。

 人間の特性をすぐ変えることも、強要し続けることもできない。
健康的に安全に歩ける幸せと、美しい街の環境を作り
観光客に提供することが、自ずの裕福に繋がることを
理解しなければ、どんな計画も役に立たない。

でも、このLRT計画が一種のスケープゴート(身代わり)となり、
北のリーフは今も変わらぬ姿を残している。

昨日、この島から30km南西の海域は、世界遺産として登録された。


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