神々の見た風景

Katzu

2012年07月09日 10:11

 沖縄の原風景を求めて各地を回ってみたが、
本島はおろか離島でも出会うことが少なくなった。
宮古・八重山地方が好きで足繁く通った時期もあったが、
その風景は住環境の変化とともに、海の環境と同じく失われて行った。
観光化も産業化も進んでいない島の方が、皮肉にも島の魅力を残している。



                                  
 伊是名島は南の久高島、中部の浜比嘉島とともに琉球王府にはなじみの
深い島で、400年続いた第2尚氏王朝の開祖尚円王の故郷である。
カルスト性の岩山とサンゴ礁の対比の美しい風光明美な島である。



 この島には勢理客と伊是名という古い集落がある。
勢理客集落は、沖縄特有のサンゴの低い石垣が残されている。
ハブのいないこの島は、石垣を花で飾る家も見かける。



 伊是名集落は、サンゴの石垣とフクギ林のバランスした街並が美しい。
この集落は沖縄には珍しい米作の農村集落であり、山際のため池と
湧水が田園の形態を作っている。



集落は、格子状の道路状に構成され、フクギが風と熱気をさえぎり、
サンゴの石垣と一体になっている。



サンゴ礁の砂浜にはモクマオウの防砂林が続く。



集落の東側には、墓地、海ギタラ陸ギタラと呼ばれる奇岩群と小山があり、
各頂上は、御嶽、美織所、風の岩など島を見渡すポイントがある。



これらはすべて、島の歴史や宗教と深い関わりを持っている。

                             詳細

 北風を集落の北側の小丘で防ぎ、集落の背後の田を守り、
南風をフクギやモクマオウで防ぎ、日出ずる東側の御嶽に向かい祈る。
絵に書いたような沖縄の原風景である。



 神々は丘の上からその集落を見守り、太陽を崇めた。
その中でも、尚家の玉御殿とその背後の伊是名城跡は、
最も印象的な島のシンボルであろう。



映画『さんかく山のマジル―』のロケ地で有名になったが、
ここは自然地形を利用したピラミッドである。
この山は、堅牢な城壁であるばかりか、灯台や
琉球王府に向いたのろし台の役割もあったと推測される。
このさんかく山は、世界の有名な遺跡と同じく、
自然地形、信仰、防御の3つの条件を備えた遺跡である。



 背後のお城に守られた配置の御廟所であるが、
ここから見下ろす風景は北西対岸の2つの山である。
通常は、海か集落、東か南を向くが、この方向が気にかかった。



民族館に行って調べてみると、もともと勢理客の東にあった墓を、
安全な場所に移築したものだという。
人々の祈祷方向は琉球王府に向かい、
相対する神々は太陽を背負い、
この北西方向に何をにらんだのであろうか。

街づくりを環境づくりという言葉に置き換えるならば、
忘れてならない視点がここにある。


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