中国の現代建築物ですぐ思い当たるのは、北京国家体育場であろう。
北京オリンピックは悪化する公害問題を背景に、グリーン・エコ・ハイテクを
コンセプトにしたもので、中国のデザインもここまできたかと感心したものだ。
鳥の巣をイメージさせるデザイン設計は、国際コンペによりスイスの建築
グループが行い、アルゴリズムによる建築構造は欧米で発達したものだ。
新国立競技場の三分の一の工事費だが、維持管理の課題を抱えている。
中国の都市で見るデザインの特徴は、『新しい』『大きい』『派手さ』にある。
建築物に限らず、土木構造物、史跡名勝に至るまですべてあてはまる。
都市の大型プロジェクトの多くは国際コンペにより行われ、
さながら都会は世界のデザインの実験場と化し統一感がない。
中国の伝統的デザインはどこにあるのだろう。
デザインの画一化は恐らく文化大革命以降に強化されてきたのだろう。
宗教は民衆のアヘンと言われ、古い伝統文化を捨て去ろうとした革命から、
一党支配継続のための国家権力の構造がデザインにも反映している。
街中でも観光地でも良く見かける巨大な牛の像。
観光客は黒牛の産地だと思ってしまうがそうではない。
牛は祭事や神話に現れ、努力する人間の化身で富の象徴とされる。
古代史に登場する火牛の兵法もあり、強い力の象徴でもある。
色は全体的に金色が好まれ、派手で彩度の高いものが多い。
街のデザインは塔や寺を中心にして、公園内の広い池に
石アーチ橋や柳など水面に移す風景を人工的に作り出す。
入口や建物の窓など、ディテールは円を基調にしたものも多い。
中国西南部は竹林が多く、庭の通路や足組によく活用される。
大理にはその名の地名になった大理石が至る所で利用され、
白族の集落の建築物は、白壁と装飾デザインというように、
素材は産地や自然の特性に合わせたものが使われる。
大理市喜洲
中国本土にはこれらのデザインがある場所は分散しているが、
那覇市の福州園にはこのような中国デザインが凝縮されている。
麗江玉泉公園
一口に中国の伝統デザインと言っても、 56少数民族の言葉も文化も違い、
大多数を占める現代の漢民族の嗜好が主体なのかと考えると寂しくなる。
中国4千年を謳ったものはすべて偽物といっても過言ではないように、
地域・民族・歴史が受け継がれ残ったものを探すのは困難だ。
中国南西部は自然災害も多く、構造物は更新され、史跡名勝には
近代に更新された巨大建造物が多い。
北方系の漢民族、モンゴル民族は、戦闘・政治・支配に長けた民族で
巨大で合理的なデザインの街を築いてきた。
南方系は多数の少数民族が群雄割拠し、各々の文化・伝統を持ち、
芸に長け、自然環境に合ったデザインの街を築いてきた。
古城や寺院の背景に山を配すると、風景は安定し、水が流れ
紫山水明の構図が生まれる一方で、国家公園として新たに
整備された巨大な公園施設がこれを打ち消している例が多い。
大理崇聖寺三塔
街のデザインも自然地形に合わせ、縦横に張り巡らせた水路沿いに
同じ高さの低層住宅地が広がる街並みは貴重な風景遺産である。
しかし、街にあふれかえる漢族中心の都会の観光客は、土産屋を歩いて
飲み食いするだけでこの街の全体像や伝統・文化への興味を持たず、
さげすむことはあっても先住民に対する礼節を知らない。
麗江古城
中国の環境デザインの課題は、この少数民族差別と宗教差別であろう。
すでに信者が1億人を超え第二の党になると言われるキリスト教、
自治区を持つイスラム教、チベット仏教は差別され、圧政を強いられている。
白族に根付いたキリスト教会は、この地特有の競り上がった多層瓦屋根と
中庭構造に聖堂がうまく溶け合ったデザインの美しい教会である。
繁華街の裏手で訪れる者も少なく、文化財としての正当な評価もされていない。
大理古城天主教堂
同様に回教の清真寺、チベット仏教寺院なども、歴史的価値のある遺産も
多く、信者により維持されているが、正当な評価が得られないばかりか、
警察所が近くに設置され監視下に置かれている宗教施設も多い。
ナシ族の民族宗教トンバ教も同様で、彼らのデザイン性は最後の象形文字と言われるトンバ文字に代表される。日本でも多くのデザイナーがこの文字に着目しており、商標登録のないトンバ文字は多くのコピーデザインに流用されてきた。しかし、ナシ族の古都麗江市のトンパ博物館を訪れる人はなく、土産屋にはトンバ文字のTシャツすらなかった。
中国のデザイナーはもう気が付いていることだろう。
真にインターナショナルな中華民族としての特徴を出すためには、
環境にフレキシブルな少数民族の自由な発想が必要であることを。
トンバ博物館