今年印象に残った風景を振り返ると、多くの自然災害の映像が甦り、
美しく喜びに満ち溢れた風景は忘れ去り、悲しい事実から感性が刺激され、
やがて歴史から逃れられない風景がとり残されてしまう。
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削られ埋立てられる沖縄
沖縄の開発は海砂を浚渫し、山を削り、海を埋め立て進められてきた。
奇跡的に守られた瀬底島のサンゴ礁から見上げる本部の土取り場は、
環境破壊のエピタフ(墓碑銘)である。
海洋博の名のもとに本部の海が失われたように、また山が一つ無くなり、
海浜が埋め立てられようとしている。もうこんな悪循環はやめよう。
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沖縄愛楽園から見る海
屋我地島にある国立療養所愛楽園はハンセン病療養所で、
病院関係者と釣人以外は訪れる機会の少ない場所である。
防空壕あとや専用の港もあり、敷地奥の慰霊碑には
社会に知られず亡くなった患者や子供のために、花がいつも献げられている。
この先の海岸の隔離された空間から望む古宇利島の海の色は、
観光客に知られることなく、雲の動きとともに変化する
本島では最も悲しいほどに美しい海の景観である。
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転石の台湾少数民族
山の民が戦争の末、河口の平地に降ろされ、支配者に迫害され
海の民とも交流し、日本の盆踊りや運動会の形態を残しながら
南洋の色彩と意匠に彩られた台湾少数民族の豊年祭。
彼らはどれほど周りの歴史に翻弄され、動き続けてきたのだろう。
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ネイティブアメリカンの嘆き
アリゾナ、ニューメキシコ州にまたがるナバホ族の居留地は、
オクラホマ州のチェロキー族と並ぶ広大な居留地で、近隣地域の
サンタフェ周辺は、インディアン文化の色濃く残る地域である。
街の至る所に見られるインディアンアートは長い歴史の上に積み重ねられ、
ようやく輝きを取り戻したものであるが、荒野を駆ける風は今も冷たく、
列車で弾く青年のギターの音は寂しい憂いをはらんでいた。
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黒人差別主義の正体
マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたメンフィスのロレインモーテル2階。
当日死を覚悟し集会に参加したという彼は、この視点から凶弾に倒れた。
併設の国立公民権博物館の入口では黒人の学童達、白人観光客に混じり、有色人グループが
雑多に並んでいたが、黒人差別の歴史を観て進むうちにその内容の重さに
神妙になり口数も少なくなり、出口付近では完全に各人種グループに別れていた。
ちょうどミズーリ州の黒人少年射殺事件が発端となり、
全米にデモが広がり、黒人差別問題が露呈した時期であった。
一部の役人や警官、車掌の中には、マイノリティに対する差別意識を持つ白人男性がいて、
彼らに接すると50年近く経っても変わらないアメリカ社会の病巣が見えてくる。
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戦争に向かうアメリカの風景
ケネディ大統領が撃たれたダラスのエルム街。
右側の教科書ビルの6階から映像のイメージよりもかなり近い距離で狙撃された。
この先は鉄道線路をくぐるため急坂となり、狙撃地点は道路の縦断線形の
凸部頂点にあたり、ちょうどクレー射撃と同じ狙いやすいポイントになる。
犯人は間違いなくパレードのルート変更を指示した人間だろう。
銃社会のアメリカは、軍需産業が経済を牽引し戦争の親玉を作りだしてきた一方で、
戦争に向かわなければならない若い兵士の悲劇も生んだ。
サンフランシスコのフォートメ-ソン。
この港からゴールデンゲートブリッジをくぐり、
第二次大戦中には165万人もの兵隊が送り込まれた。
アジア人にとっての金門橋は移民の憧れの目的地でもあり、
敵国の事情など知る余裕もなかったが、逆の視点に立ち、
橋をくぐり太平洋戦争に向かう若者の気持ちを思うと、
この夕陽がやけに悲しく見えてくる。