今年の印象に残った風景を振り返ると、
朝霧から浮かび上がったボロブドゥール遺跡、メコン川の夕焼け、
朝の煙に浮かぶルアンパバーン、キャメロンハイランドの茶畑など、
外国で出会った風景がある。
国内では、伊是名島のさんかく山、大神島の海のパノラマ
石垣島の平久保崎、東京スカイツリ―のほかに、
朝日連峰の夕焼け、竹富島の西桟橋がある。
最後の二つは、何度行っても見飽きることなく、自然に足が向いてしまう。
それは自分自身の心の風景でもあり、すでに記憶のひだにこびりついている。
竹富島の西桟橋は、観光客なら必ず訪れる有名なスポットである。
早朝からボケーと海を眺める人がいる。
暑い昼間は、自転車で観光客が次々に来る。
夕方になると、宿泊客は夕日を見に、どこからともなく集まってくる。
確かに、朝夕の凪いだ海の静けさは、疲れた心を癒やしてくれる。
しかし、もっときれいな海はたくさんある。
来る人それぞれに思惑はあるが、何もないのになぜ来るのだろう。
景観論的には、完璧な構図が出来上がっている。
正面に小浜島と遠景の西表島の山並み、青く広い石西礁湖に、
唯一の構造物が直線的に伸びる。
かつては小浜島、西表の農地に向かう為の、厳しい時代を物語る古い桟橋である。
桟橋から海を望むと、背後から朝日が、夕日は海に落ち、そして月が上る。
西向きで太陽の光が反射しないため、海の色が映え、天候により鏡面から白波、
青緑色から灰色、夕日色へ、刻々と色を変える。
広大な砂漠・雪原・海原、圧倒的な大瀑布・岩山などの自然景観は、
はじめは驚き、感激するものだが、ほとんどの人は30分も見れば飽きてしまう。
そこで生活したり、苦労して登った山ならともかく、その多くは行ったという
既成事実だけで、観光絵葉書のように忘れ去られてしまう。
印象に残る風景には理由がある。
そこには、魅せるための風景の要素が存在するからである。
1、風景の基盤に、広い自然景観やまちの景観があること。
2、中心に印象的な形があること。
3、日々変わる風景があること。
4、人と物の歴史の中に、想像を掻き立てる魅力があること。
つまり、印象に残る風景とは、単にインパクトがある普遍のものだけでなく、
日々変わる風景の中に、安らぎや親しみ、思い出を心象風景に刻まれる、
人とものをつなぐ何かがあるもの、ということになろうか。
島から島へと観光した時には、ワイルドなフィールドを求め
気にも留めなかった場所が、歳を重ねるうちに好きになってしまう。
都市的景観と言う意味では、ボロブドゥールやスカイツリ―も同じく、
印象に残る風景の要素を持っている。
これからスカイツリ―は、東京タワーのように多くの人間ドラマが
新しい景観を育てていくことだろう。