放射線の空間線量も落ち着き、魚類の残留汚染物質も確認されなくなり、
福島の漁業も再開された矢先、東電は福島第一原発港内の海水から
基準値の10倍のストロンチウムが検出され、汚染水の漏洩が確認されたと発表した。
国内では国政やメディアだけでなく、災難がふりかかった一般の国民でさえ、
この話題から無意識的に逃れ、原発再稼働や景気回復に興味を示しつつあった。
今年1月の東電の原発の現況報告にも、安心できる内容しか書かれていなかった。
東電資料
しかし、海外のメディアや環境関連機関では、事故後も引き続きこの問題を懸念し、警告し続けていた。
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国内では、放射能の影響を語ることをタブー視する風潮すらあるが、アメリカ特に西海岸では、
食の放射能汚染に関するニュースや、不安をつのるブログの書き込みが増えている。
エナジーニュースのツイッターでは、国内以上に日本政府と東電に対する
苛立ちと疑問が高まり、一部誤解もあるが、かなり突っ込んだ意見が見られる。
ENA News(2013.7/30)
HUFF Postでは、カリフォルニアのクロマグロから放射能の陽性反応が出た記事を出した。
読者の環境に対する意識は日本以上に高く、多くの食に対する不安が寄せられた。
Sanfrancisco(2013.2/23)
Enviro Reporterは、アメリカらしい遠慮のない表現で演出がかった面もあるが、
多方面の放射能汚染の影響を指摘しており、これが一般的な考えに落ち着くことが恐い。
No Place to Hide
過激な行動で知られるグリーンピースだけでなく、原発周辺の海洋調査を要請している団体・組織は
数多く、日本政府に調査を拒否されていることに苛立ちを表わにしている。
北米の魚介類から放射能が検出され、漁業ビジネスに影響するようになれば、海外企業はTPPの
ISD条項を利用しかねない。アベノミクスの金利緩和政策が外国ヘッジファンドに利用されたように、
TPPが多国籍企業の利権のために画策されたものならば、漁業経済に対する影響は少なからず大きい。
汚染水の流れ出た原因追及と工事の責任追及を、2年間延々と行っても問題は解決しない。
今すぐに、流れ続ける汚染水を止めるか、どこかに溜めなければならない。
問題となった2枚のシートと粘土層による地下貯水槽は、一部シートの破損で漏水を起こし、
建設したゼネコンが提訴されたが、これは単純な施工ミスによる理由だけではない。
汚染水の危険度を軽視し、建築物の地下貯水槽程度の設計基準のあいまいさで
東電の内部理解で施工方法を認めてしまったことにも起因する。
本来、周辺土質や自然条件を考慮した土木技術の範疇で議論されなければならないが、
それを語り提案する土木専門家はいない。なぜなら、汚染処理水を永年貯蔵するための
土木設計に必要な、設計確率・安全率を理論的に決められないからである。
地下水位が上がり、建屋全体を囲むのが難しくなった現在、行われようとしている対策は、
汚染地下水の流れる水道(みずみち)を下流で集め、汲み上げる工法が試されている。
薬柱工法は即効性のある手段だが、経験上、地下水の水道は変えられない。
東電は昨年、港内の海底土の被覆工事を一部行ったが効果は薄く、これ以上の汚染水の
海域への流出をなくすには、とりあえず港の入口を締め切る方法しかない。
地下水の流出箇所が港外に広がっている場合は、その範囲で全体を締め切る。
魚の流出だけでなく、運行船舶を停め、それが不可能なら港外に仮桟橋を設けなければならない。
暫定的な施工方法は幾つもある。
阪神淡路大震災後の淀川の堤防を閉め切ったように、遮水矢板を2重に打ち込む。
事業の是非を問われた諫早湾干拓工事は、海を遮水した後、濃縮した海水をろ過した後
また海に戻すという面倒な過程を踏み、2,500億円の事業費をかけ完成した。
汚染水の流出防止工事は、事業の緊急性から考えると、これから起きる大震災に備える
防災施設の建設より、国をあげて今すぐに取り組むべき事業であるはずである。
黒船や経済封鎖、大災害が起きないと動けない日本人、
自国の公的な資料や大企業が信じられなく、
何もできず、海外の情報を探している自分の姿が悲しい。