風景デザインは、映像や絵では決して伝わらないものがあり、実体験できなければ、
むしろ、ストーリーや理屈で説明するとわかりやすい場合がある。
今年、特に印象に残った風景は、
オールドバガン:仏教都の落日
40℃を超す乾期のビルマ北部。馬車に乗っても熱風を受け、熱射病に近い状況で寺院に登った。
シェ-サンドパヤー寺院からイラワジ川の向こうのアラカン山脈に日が落ちて行った。
赤い大地に、大小3000以上の上座部仏教のパゴダの尖塔が空に向かう景観は、
宗教が洗練された末の近未来の都市の姿を思い起こす。
アンコールワットの悠久の時を感じる落日や、クスコの真っ赤な血で染まった夕日は
脳裏に焼き付いているが、バガンの落日も劣らず印象深いものがあった。
バガン遺跡は修復や歴史の検証が遅れ、過度の装飾が行われたことで世界遺産には
指定されていないが、この寺院群は遺跡ではなく、周辺に集落が少ないにもかかわらず
参拝客が後を絶たない、生きた仏教都なのであった。
やんばる:青と緑の空(くう)の風景
伊是名島や与論島に向かう洋上から、沖縄本島を眺めると
北端の辺戸岬の岩山が、航海上の目印であることがわかる。
近づくと圧倒的な山塊が迫り、辺戸御嶽という斉場御獄とならぶ琉球王府の聖地がある。
安須森(あしむい)と呼ばれるこの森は、特に宗教施設や目立った造形物はなく、
山全体の空間が信仰の対象なのである。
山の頂きに登ると、360度の海と山の織りなす青緑色の景色が広がっていた。
この空(くう)の間にある唯一無比の風景を、古(いにしえ)の人は敬ったのであろう。
やんばるの森の緑と青のグラデーションは海中まで続き、多種多様な生物環境を育んでいる。
小宝島:水から見上げた赤立神
琉球弧に連なる奄美群島やトカラ列島は、観光・軍事・建設産業において先行する
沖縄本島に比べ、交通過疎地となり開発も遅れている。
その結果、観光客も少なく、奄美特有の自然環境や、しまの伝統が残ったのかもしれない。
夜、河原で人の気配を感じ振り返ると、大きなマツヨイグサが咲いて、月が山の端から登っていたりする。
小宝島の誰もいない海で泳いでいると、何か人の気配を感じ、水面下から見上げると、
赤立神と呼ばれる神々しい神岩の姿があった。
自然の中の風景美とは、こんな精神世界が宿るフォルムなのかもしれない。
軍艦島:近代日本の歴史風景
人によって風景から受ける印象はまったく異なる。
とりわけ都市を作ってきた者にとっては衝撃的な光景である。
限られた条件下で、当時の最先端の技術で、付加価値の高い街を造ったことを称賛する者もいるだろう。
都市のコンセプトは人の命よりも、性能と生産性の向上を優先させた日本人的な都市であるともいえる。
現在の廃墟からは、大正時代からの都市の発達の過程を断片的に垣間見ることができる。
そして、そのデザインは、近代日本の象徴である軍艦のイメージになった。
西表祖内:しまの唄風景
本土から最も離れた先島は、しま(集落)単位で独自の文化と自然環境が残されている。
美しい風景とは、無機質な自然だけでなく、人の生活との間に見出される。
西表島の節祭という伝統行事では、踊りと唄が祭事の中で奉納された。
唄と踊りを浜の舞台に、しまの自然を借景にした風景は、守り受け継ぐべきものの意味を教えてくれる。