昨日、国頭村で沖縄はじめてのトレイルランニング大会が開かれた。
有志の情熱と取り巻く人々のボランティア精神なくしては、イベントは実現しない。
大会ブログを見ていると、現場の作業と関係者との調整が
大会直前まで苦心して行われた様子がうかがえる。
新しい競技開催を地域振興に結び付けるために、地元役場の理解やメディア、
メーカーの協力も得られ、内地参加者も増え、参加希望も1,000名を超えたという。
前日の大会会場では、準備に余念がなかった。
一昨年、沖縄初のスポーツイベントをサポートしたこともあり、主催者の苦労はよく理解できる。
ただ、競技会に関しては気掛かりなことがあった。
ボルダリングのある国体競技はともかく、高校総体の登山競技では、走るより安全な行動、
正しい自然と地理の理解、速度よりも均整のとれたグループ行動が求められる。
この背後には、日本人の行動美学や、山岳信仰に基づく山を敬う伝統が生きている。
山道の岩を傷つけない為に、トレッキングポール先のゴム装着が常識である国民性なのである。
トレイルランニングに関しては、広大な森林・台地を馬で移動する大陸の自然環境の中から
クロスカントリーが普及した欧米とは背景が違い、登山者の中には異を唱える人も多い。
大雨の降った林道が気がかりで試走してみる。
先週、来週とマラソン出場の予定であるが、5分で駆けるのをあきらめた。
それは、むせ返るような湿気と濃い空気のせいでも、苔むした石畳みが滑るためでもない。
ノグチゲラはこの時期すでに巣を離れ静かであったが、
いつもは先導するホントウアカヒゲが驚き逃げていく。
白い花びらが道を覆い、見上げるとサクラツツジが満開であった。
雨後の林道にはオキナワシリケンイモリが歩いている。
古い林道は、雨水が浸み込む斜面地と違い、幾つも水たまりとなり
トンボや両生類の固有の水環境を保っているのである。
この時期は、天然記念物のノグチゲラやイボイモリへの影響はないと判断できるが、
国定公園内の特別地域での開催には、十分留意する必要があるだろう。
海外の例を取れば、大会ブリーフィングだけでなく、前日に専門家を招いて
自然環境の講習会を行こうことで競技者資格を与え、保護に理解を求める方法がある。
森林セラピーロードと言われるこの林道では、日常はエコツアーが行われ、
静かに耳を澄まし、森の音を聞き、説明するガイドの姿をよく見かける。
やんばるの森には保護すべき生物も多く、調査中の古道や信仰の対象もあり、
散策路の整備・維持管理はもとより、車道自体の整備さえ困難な状況なのである。
世界遺産登録の話もある森でのトレイルランは、魅力ある企画ではあるが、
やんばるの森を走るだけなら、初めは市街地に近い森からルートを選定すべきだろう。
イベントは、地元の自然観察会やWalkingから始め、徐々にWalk&Runなどの
競技性のあるものにブラッシュアップしていく方向が望ましい。
泥を払わなければ入れないガラパゴスの動物と、人間の振る舞いに翻弄される
沖縄の動物の価値の違いは、人間の価値観の違いでもある。
コースは有志の協力で林道の下草はきれいに払われ、
ハブの不安もなく、美しい竹のトンネルが続いていた。
単に内地のブームと思惑から開催された大会でないことは明らかであるが、
特に自然を相手にするスポーツ環境を整えるためには、
山の信仰と振興の狭間で、まだ多くの議論と時間がかかると感じた。