森のエメラルド

Katzu

2017年06月10日 18:49

 雨の後には白い花が咲く。
そう思うようになったのは、沖縄の梅雨の頃に咲くのは白い花が多いせいであろう。どんな理由の生物学的な色彩遺伝かどうかは知らない。米軍の上陸前に咲いた白百合の花は、白梅・ひめゆり学徒隊のイメージにも重なり、戦後に多くが移植されたものと勘違いしていた。
多くの白百合は自生しており、嘉津宇岳の山頂にも咲いていた。




やんばるの森を埋めつくしたイジュの白い花は、梅雨入りとともに落花しはじめたが、陽の光を浴び白いコンロンカのガクが開いた。






ゲットウの花は、白い実のような花から、徐々に黄色い動物のような顔をのぞかせ始める。




 梅雨の沖縄が良いのは、連休が終わり観光客が少ないせいもあるが、風雨が毎日続くわけではなく、その合間の晴天が適度に清涼で心地良いためである。



名護岳の渓谷に入ると、すでに忙しく動き出したのは一部の巣作りの鳥たちと、夏の暑さが来る前に雨を浴び大きくなり始めた両生類、軟体動物たちである。水たまりにはオタマジャクシが、木には陸貝やナメクジが観察できる。



沖縄には侵略的要注意外来生物であるアフリカマイマイが繁殖している。肺臓ジストマの中間宿主で触るのもいけないという人もいる。沖縄では戦後の飢餓の時代に食用として移入されたため、食べることに抵抗のない人もいる。東北でも同様に最近までタニシを食す人がいたが、肺臓ジストマの病気にかかったという話は聞いたことがない。
沖縄にはナメクジはもとより、海や川に住む様な形の貝が木に貼りついた、いわゆる陸貝も多く興味を注がれる。




カタツムリは本土と異なる種類が多い。なかでもアオミオカタニシは、眼が胴体にあり別に触覚が伸びるカタツムリの原型といわれ、準絶滅危惧種に指定されている。数年来、一度は自然の中で目にしたいと探し、ヒアリングしていたが、『その辺にいるはずよ。』から『最近見ないねえ。』に変わってきていた。アオミオカタニシは『森のエメラルド』とも言われ、その愛らしい姿が人気となり虫ハンターの採取対象になっていることは容易に推測できた。もう探すことをあきらめかけていたが、先週ついにご対面することができた。



霧雨の降りはじめた山道のわきの木に、オキナワキセルガイとヤンバルマイマイが仲良く張り付いていた。さらに目を横に移すとエメラルド色の小さな貝を発見した。ほんの5mmほどで手に取ると閉じてしまいカタツムリらしい目は待っても出なかった。



元に戻してあげたが、大きくなって再び目にする機会はあるのだろうかと不安になる。
アカショービンの鳴き声が響き、先の道をマングースが横切って行った。




 広義の生物ホットスポットとは別に、『やんばるの森の生態スポット』と自分かってに呼んでいる場所がいくつかある。専門の人は、植物は植物、虫は虫、鳥は鳥、とそれぞれ探していくが、なぜかその場所が不思議に重なってしまう。トータル的に環境を見ていくと、生物連鎖の法則は一つの街が計画的に形成されていくかのように進んでいく。
家の近くでアオミオカタニシをよく見るというハルサーからの情報もある。貴重鳥類の市街地への移動の傾向と同じで、やんばるの森の中では今何かが起きている。
昨年から北部やんばるの林道では、車の夜間乗り入れが禁止された。やんばるの世界遺産の登録は進むであろうが、人間と生物の住み分けがさらに難しくなるだろう。



今朝、森に行くとサンシャワーが暑いくらいにまぶしく、カタツムリは姿を消していた。
街に紅いホウオウボクが開花し入道雲が立ち上がった。
白い花が紅い花に変わり、台風が発生すれば梅雨は開け、間もなく沖縄は夏になる。



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