人が流れる国境の街

Katzu

2014年11月22日 20:23

 テキサス州エルパソとメキシコ・チワワ州のシウダーファレスは、国境のリオグランデ川を挟んで接する。
歴史的にはスペイン、メキシコ領の時代を経て、現在は合わせて200万人の都市圏を形成している。
国境の街は人と物と欲望が交差する。メキシコとアメリカの経済格差は、全米で2番目に安全な街と、
戦争地域を除けば世界で2番目に危険な街という対比を生んだ。



 エルパソの街は光にあふれ、スペイン語が街に氾濫する美しい都市である。
駅から1kmほどメキシコ人の買い物客に混じり南に歩くと、国境のリオグランデ川にたどり着く。



川を見るだけだったが、途中50円位払いパスポートを見せた所が入国管理だった。
意図せず、いつの間にか入国してしまったのはこれで3度目である。
リオグランデ川は水量も少なく、コンクリートの都市下水路と同じで興を削がれた。



 シウダーファレスには、1泊で歯医者に行く予定だったがあきらめていた。
サンタフェ駅で出会ったシウダーファレス出身の学生は、こうアドバイスしてくれた。
『行かない方が良いです。もし行くなら荷物は持たずすぐ引き返して下さい。
 僕が帰省する時はバッグは前に抱え、いつも親に車で迎えに来てもらいます。』



故郷の街をこんな風に語らなければならないのは、可哀想な話であるがこれが現実だと知った。



シウダーファレスは一見、中南米のどこにでもあるような街であるが、
一昨年までは麻薬抗争で1日平均10名も亡くなる世界一の犯罪都市であった。
交差点でたむろする人の視線を感じ、すぐに退散した。



アメリカ出国側は買い物帰りで多いはずなのがガラガラで、
アメリカ入国側は自動車の大渋滞で、入国審査には自転車レーンもあった。
人口が流入する現場を見る思いであった。
外国人の審査は緩いのか荷物チェックもなく、ESTAのチェックもなかったようだ。



 アメリカの移民は毎年増え続け、2011年には4,000万人に達し、4人に1人が不法移民とされる。
ヒスパニック人口は増え続け、LAでは既に人口の約50%を占めている。
特にメキシコ移民は毎年10万人規模で流入し続け、メキシコからの不法移民は、
アメリカ国内で665万人と言われる。(US国土安全保障省)
一方、メキシコ国境付近では越境時に毎年200名ほど死亡し監視も強化されている。



 翌日、Grey Hound Busでエルパソからフェニックスに向かう途中、
ツーソン付近で検問があり、警察官が2人乗り込んできた。
メキシコ人はパスポートと就労許可証がチェックされる。
パスポートチェックは入国審査以上に長く時間がかかった。



主要駅構内では麻薬犬で荷物をチェックしていた。
国境の水際だけでは不法移民や麻薬は食い止められず、
フェンスや塀で国を区切るものも国境ではなく、本当の国境は違う所にある。



アメリカの人口は移民により毎年200万人増え続け、EU各国は移民政策により横ばい、
移民政策のない日本は減少に転じた。GDPの増減も同じ結果となった。

 急激で過度な移民は社会問題を引き起こす一方で、経済社会を安い労働力で下支えGDPを
押し上げる側面もあり、人口減少社会の日本には、バブル期のような国民の尻を叩く成長戦略より、
母数を増やす合法移民を多く受け入れる方が、グローバル社会に向かう現実的な対応になるだろう。



国境の川の流れは止められても、欲望と人の流れは止めることができない。

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