2012年02月03日

宮沢賢治の環境童話

 環境をテーマにした小説の中で最も有名なのは、
レイチェルカーソンの「沈黙の春」である。
この小説は農薬の公害問題をテーマに、
科学万能の考え方に警鐘を鳴らした作品であった。
日本では有吉佐和子の1974年の小説「複合汚染」がこれに類する。

宮沢賢治の環境童話

 その約40年前に書かれた宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」は、
環境問題を扱ったSF童話である。
少年時代は、ジュールヴェルヌやポーのSF小説をよく読んだものだが、
彼の作品は、この西洋の科学万能の作品とは一線を画す、
日本的で人間的な、現代のSFアニメに通じるような印象深い童話が多かった。

この童話には、冷害、旱魃、飢饉、病害、汚染、地震、火山、潮汐発電所、
熱気球、二酸化炭素ガス、温暖化という環境のキーワードがちりばめられている。
この先駆的な科学知識と、彼の育った岩手の自然風景、理想郷イーハトーブの
シュールな世界に、故郷を助ける少年の自己犠牲を描いた童話となった。
これは他の童話によく見られる残酷な悲劇でもあるが、死を美化したものではない。

 あらすじの展開は理路整然と解り易い。
現在の科学技術と自然災害との関係、解決の方法論と、
ヒューマン的な完結の仕方を端的に表している。

宮沢賢治の環境童話

 80年経った現在、科学の裏付けは変わってきた。
例えば潮汐発電に関しては、1960年代に海外で実用化された。
しかし、日本では繰り返し実験されてきたものの、
海面の干満の差が少ないため、普及に至っていない。
人工降雨については、中国が最も多く行っているが、
むしろ国境を越えた大気汚染が危惧されている。
日本での研究は進んでいない。

 人工噴火により、大量の二酸化炭素を発生させ、温室効果で冷害を防ぐという方法は、
逆説的ではあるが、人間がもたらした現在の地球環境に似ている。
そして最後に、映画ハルマゲドンのラストシーンのように、
最後のスイッチを押すため、主人公が一人火山島カルボナ―ドに残る。

宮沢賢治の環境童話
                                    予告映像
当時、宮沢賢治がこのような見識を持っていたことにも驚かされるが、
北国の岩手の大地にしっかりと根付いた、彼の愛郷心と情熱が感じられる。

そして、津波で流された島越駅が、カルボナ―ド駅と呼ばれた由来が、
唯一残された石碑に言霊として残った。
3,000㎡近い駅舎用地は、地元有志がら無償提供されたことが刻まれている。

宮沢賢治の環境童話



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Posted by Katzu at 12:27│Comments(0)大震災
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