2014年12月05日

アメリカの公共デザイン

 アリゾナ州メサ市は、ソノラ砂漠に建設されたフェニックスの大衛星都市の一つで、
人口45万人のアメリカ国内で、近年最も発展したブーンバーブである。
ブーンバーブ(Boomburb)とは、急発展あるいは流行(Boom)の、
郊外(Surburb)に拡大する住宅都市を意味する新造語で、
最近のアメリカの街づくりを知るには格好の都市である。

アメリカの公共デザイン

各大街区のクラスターは各事業者ごとに開発された。
そのため、この街のデザインは、多種多様で、

・ 公園を中心とした田園都市型
・ アプローチが制限されるスーパーブロック型
・ 別荘開発に見られる個別アプローチ型
・ ゴルフコースの地形に合わせた用途追随型
・ 行き止まり通路のクルドサック型
・ 従来の低層戸建住宅地のグリッド型

アメリカの公共デザイン
                                             (詳細)
さしづめ、『街の博覧会』のようなクラスター型の都市モデルなのである。
一見、設計者の自由な発想で計画された印象があり良い教材になるが、一方で
クラスターごとに開発者の意図が違うため、チグハグな印象の都市が生まれた。
住民にとっては、各コミュニティで生活できれば支障ない訳で、アメリカ型の
個人主義的かつ合理的な都市経営スタイルが反映されていると言える。

アメリカの公共デザイン

 公共物のデザインについては、各州各地域により異なるが、全体的に自由度は
高く、200年以上経つ歴史的構造物も現れ始め、新旧の対比が生まれつつある。

1、街のオブジェに関する自由度 
 駅前で最も目につくこのオブジェは、一体何なのだろうと見上げた。
驚いたらいいのか、笑っていいのか、土地の名産なのか。
何もない駅前で、この新鮮さに一人ほくそ笑んでしまった。
借景の少ない大陸では良いランドマークとなり、教義じみた理由などいらない。
日本の公共物デザインは、意図がなければ採用されない。
ある駅前のトンボを乗せたデザイン時計の提案に、役所の担当は
だれでもわかる趣旨がなければNoだと言った。
しかも、短絡的に土地の名産をデザインしただけでは国の補助金は付かない。

アメリカの公共デザイン
         カンザスシティ駅前のスズメバチ

 美術館となれば、さらにその自由度は増す。
アメリカンデザインとして教科書に載っていたこのオブジェ、
なぜ巨大なシャトルなのか、ずっと気になっていた。
今回足を運んで、やっとその理由がわかった。
これは、知的好奇心を掻き立てる美術へのエントランスなのである。

アメリカの公共デザイン
           ネルソン・アトキンス美術館

 突然、車窓のミシシッピ川岸にピラミッドが現れた。
はじめ、これは巨大公共物の悪い例だと感じた。
中国の遊園地の知的財産侵害を非難できるものではない、と。
近づくと水漏れがするらしく、あいにく工事中であった。
このピラミッド近くに、ここがミシシッピ川汽船の中継港だったと記されている。
メンフィスとは、ナイル川の古都から取った地名であることもわかった。
一体、どれだけの観光客がこのピラミッドの意味を知っているのだろう。
デザインとは、知識と直感のどちらが先行するのかいつも迷う。

アメリカの公共デザイン
            メンフィス:ピラミッドアリーナ


2、造形物に対する態度
 映画やテレビで知るニューヨークと違い、明らかに減ったと思われるものは、
浮浪者、地下蒸気の漏れ、ストリートアートとは微妙に異なる落書きである。
景観と防災防犯に関するため、市当局が取り締まりと整備を強化した結果であろう。
建物や公共物への落書きは犯罪として対処したために徐々に減少し、
今なお荒廃した建物には落書きが残る。道路には自転車のサイン類が増え、
反核、市民権などの垂れ幕が目立つ。

アメリカの公共デザイン

市民はいざというときは、デモにより公共物を占拠し自己主張する。
一方で倉庫や公共物などをパブリックアートとして利用できる場を与えることで、
幼児から青少年の自覚を促す一方、大人の社会参加の場を提供している。
LA市警察前の公園では、市民団体が貸し切り子供とのパブリックアートを主催していた。

アメリカの公共デザイン

日本人は民度が高いと言われるが、公共物に関してはマナーが悪く、
デザインはシンプルで、素材は壊されないものを求められる。
タイルより強い磁器でさえ危ないと言われ、案の定割られた経験がある。
海外の公共物には文化財でなくても公園等でタイルを使用したものは多い。

アメリカの公共デザイン

ニューオリンズでは、店のガラスは割られても、歩道の車止めには高価な意匠が施されていた。

アメリカの公共デザイン 

アメリカの公共デザイン

シカゴの高架鉄道は19世紀に建造された鉄骨造で、基本的に同じ構造で維持運行されている。
不便でも古い物への愛着は強く、鉄骨と木の床は、生きた博物館のような趣きがある。

アメリカの公共デザイン

蒸気機関車の展示や、古い車両の利用は日本以上に盛んで、鉄道ファンがそれを支えている。
日本のマニアとの違いは、写真を撮り乗るだけでなく、駅の一部を借り博物館を作るほどである。

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3、維持管理に関する考え
 アメリカの街を歩いてみると、公共物に掛ける資金力と、質の高さと管理の考えの違いを感じる。

アメリカの公共デザイン

芝生は修景のために用い、養生期間は立ち入り禁止が基本である。
いつも人を入れては均一に育たない。日本では、芝生は芝刈りの管理費がかかるので、
マサ土で雑草を抑えるようにと、行政から本末転倒の指示を受けることがある。
芝を張るということは、ランニングコスト重視で芝を育てると言う意味である。

アメリカの公共デザイン

サンノゼでは中央分離帯に玉石を埋め込んでいた。以前、雑草対策の一つに
提案したことがあったが、会計検査に引掛かるからと一蹴された経験がある。

アメリカの公共デザイン

モントレーの公園のアプローチや園路に、大量で良質なウッドチップが利用されていた。
軽いものは風で飛んだり雨水で流れるため、均一で角のない素材を吟味する必要がある。
日本でも最近増え、7年ほど前公園の園路に使用したが、庭のインテリアに使えるため盗まれた。

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アメリカの街路照明の照度は、日本に比べかなり低い。
しかし、個人のライトアップの意識は高く、地域の特徴をうまく引き出したものも多い。

アメリカの公共デザイン

サボテンは、民地横断を禁止する緩衝緑地帯の役目を果たしていた。

アメリカの公共デザイン

 道路の構造については、リサイクル素材、ヒートアイランド対策、公共交通機関の導入、
省エネ技術などは、日本で採用されつつある先進的な道路の考え方とほぼ同じである。
むしろ、アメリカで考え出され、日本が追随しただけではないか、とさえ思ってしまう。
日米の大きな違いは、道路を通した教育、モニタリング、雨水の考え方である。
この例では、路面排水は浸透式で、たった2年確率の排水施設で受け、
雨水を自然サイクルの中で還元させる方式をとっている。
歴史的に、洪水よりも干ばつ被害が多いためであろう。

アメリカの公共デザイン
             Chicago Blue Island Avenue           (詳細)

 アメリカは日本より豊かな国で、維持できる素材を利用し更新しつつ、
民間も含めた管理システムをつくり、公共物を維持管理している。
公共物を壊すことに関しては、徹底した罰則を持って対処する。
反面、公園に銃持込みを禁止する看板を掲げなければいけない程、
危険で緊張する公共空間を生み出してしまった。

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