2015年05月29日

沖縄の鉄軌道計画

 沖縄は梅雨入りし、原産地の名護でも珍しくなった露地のナゴランが
オリオンビアパークで、着生されたモンパノキにしずくを垂れて咲いていた。

沖縄の鉄軌道計画

雨音の聞こえる朝、目覚ましに脅され、とっさに電車の時刻表が頭をよぎった。
那覇に行く予定の日、2時間かかるバスでなく反射的に電車通勤の記憶が蘇った。

現在沖縄県では、鉄軌道構想に関するPIのパブリックコメントが求められている。
主な内容は那覇―名護間の鉄軌道の導入についてである。

結論から先に言うと、街づくりの視点からは鉄軌道は必要である。

理由は、名護市が国内で最も、空港か駅までの距離が遠い都市であるためである。
特に、人口5万人を擁する都市圏から空港に至る旅行距離が70km、
駅までは65kmも離れた公共交通過疎の都市はどこにも見当たらない。

沖縄の鉄軌道計画

地元にとっては、迷惑施設である軍事空港を作るよりも、
本土並みの生活に近づくための喫緊の課題であるはずだ。

開通に至るまで課題は、ルート、機関の選択、交通の整備プログラム、
住民の理解、啓蒙といった過程を経なければならない。
まだ国の補助金だけでは解決できない多くの課題を紐解く必要がある。

沖縄の鉄軌道計画

戦前、那覇と嘉手納、糸満、南風原に総延長48kmの軽便鉄道が走っていた。
名護までの延伸計画があったが、戦争と基地により既設線も寸断され廃止された。

沖縄の鉄軌道計画

 戦後27年間の米国統治が沖縄の都市構造を変えた。
アメリカの街は約50km単位で荒野にアメーバのように広がっている。
郵便幌馬車の1日の移動距離が単位となっている。
現在も鉄道・公共バスのサービスのない街も多く、自動車が主たる交通機関である。
代わりに100マイル単位で地域空港(Regional Airport)がある。
アメリカの計画屋から見れば、沖縄は車で十分、嘉手納もあるという判断になる。

沖縄の鉄軌道計画

 日本復帰後も同様で、総合交通体系計画では需要のトレンドを予測するため、
日本の道路計画、補助金政策では延々と道路が延長されていく。
都計決定以外の実施的な長期計画もなく、単年度で整備する箇所を先行させるため、
至る所でつぎはぎだらけの道路形態になっっている。

沖縄の鉄軌道計画
                
 沖縄の交通機関分担は、H18のパーソントリップ調査では自家用車利用が約7割、
二輪車は6%、バス・モノレールの公共交通機関はわずか4%にすぎない。
目的別にみると、通学目的でさえ3割の人が自家用車を利用している。

沖縄の鉄軌道計画
                

公共バスを選択しない理由は、料金が高く、定時制が低く、不便なため。
自転車・徒歩を選択しない理由は、島嶼特有の複雑な地形で坂が多く、
亜熱帯の気候で蒸し暑く、紫外線が強く、台風の襲来もあるため。
いずれも、利用者の視点に立てば理解できる。

沖縄の鉄軌道計画
                詳細

 沖縄県総合交通体系基本計画の将来像を改めて見る。
那覇圏の渋滞対策として、モノレール延伸と与那原・沖縄市までのLRT計画が先行し
西海岸を補完しつつ、沖縄市から名護までの鉄軌道を進めるというヴィジョンである。

沖縄の鉄軌道計画

復元された与那原駅に行くと、かつての軽便鉄道に対する愛着と熱意が感じられ、
当初懐疑的だったLRTの導入の夢も想像できるところまで来ている。

課題は那覇―沖縄市間のLRT、鉄軌道であろう。輸送能力、旅行速度で鉄軌道、
採算性、サービスでLRTということになるが、気になるのがLRTへの誤解である。

沖縄の鉄軌道計画
            フランス ナンシー

日本ではLRTは路面電車というイメージがあるが、郊外部は高速鉄道に、市内は
バスサービスも可能な、路面電車とは異なるオールマイティな交通機関である。
バブル時の日本の新交通システムは技術的に優れていたが、モノレールは高価で
低速な中量輸送機関となり、欧州のLRTシステムには思想的に先を越されている。

環境問題に直面する中国遼寧省の瀋陽市では、フランスのトランスデヴ社に
発注した総延長60kmのLRTシステムがすでに開業している。


沖縄の鉄軌道計画

 先日那覇までロードバイクで往復した。改めて体で知ったのは、道路構造上の
自転車の優先度の低さと、基地により交通環境が遮断された姿であった。
健康体なら那覇―名護間を1日で往復することも可能で、将来の2次アクセスの
機関分担を変える自転車ネットワークを早期に完成させることが必要であると思う。

台湾の自転車専用レーン延長はすでに日本の総延長を越え、周回する勢いである。

沖縄の鉄軌道計画


 鉄軌道事業が成り立ちB/Cの値を上げるためには、車から公共交通への転換、
徒歩・自転車利用促進がカギをにぎる。

健康イベントや子供の自転車教育など地道な運動に取り組む人達がいる。
鉄軌道誘致運動は短期的な資金を生む単なる政治活動ではなく、
これらの運動やCO2削減の啓蒙とリンクしなければ意味がない。

沖縄の鉄軌道計画

図上で計画の理屈は成り立っても進まぬのが世の常で、
実際飛び込んでみなければわからないし何も進まない。
アメリカ軍の駐留背景、日本の画一的な計画実施の対応が
今の沖縄の交通事情を加速させたことが慙愧に堪えない。

自転車でLRTに乗り込み渋滞する那覇圏を抜け、自転車専用道を名護まで北進し、
用事を済ませ帰りは鉄軌道で帰ってくる、そんなことを夢見てもいい時代だと思う。


タグ :まちの環境

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Posted by Katzu at 13:39│Comments(0)街の環境
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