パラオは日本から3000km南の島国である。
私はこの島のまちづくり支援に関する仕事をする機会を得た。
これは昨年末、私の送別会で計画委員会から送られた
大きなストリーボードと呼ばれる木彫りに刻まれたパラオの伝説である。
昔、パラオ本島のニワール州のジブタル島に一人の老婆が
住んでいた。老婆は貧しく日々の暮らしに困っていた。ある日、
ひとり息子が長旅から帰ってきた。
老婆は村人が魚をくれないことを涙ながらに息子に話した。
不憫に思った息子は、庭にあるパンの木の枝を折ると、木の
中から次から次に魚介類があふれ出た。
それにより老婆の生活は楽になった。
この不思議なパンの木の話は、瞬く間に村人に伝わった。
そのことを妬んだ村人は、鋭い斧を持ち出し、木の幹を切倒
してしまった。すると、木の幹から海水とともに大きな魚類が
あふれ出てきた。
村人は喜んだ。これで漁に行かずに楽に暮らすことができる、と。
しかし村人が喜んだのも束の間、ジブタル島は幹からあふ
れ出た海水で沈んでしまった。
現在もニワールの沖合には、沈んだ村や道路が海中に横たわっている。
私は、州議会に都市計画と環境計画を結びつけた計画の提案を行っていた。
反対意見もなく、彼らが理解してくれたと思い込んでいた。しかし、彼ら自身は
地球環境問題の被害者で、環境目標にはある種の違和感を感じていたのも事実であった。
彼らの返答はこのストーリーボードだった。
この伝説の解釈はこうである。
老婆は母系社会のパラオの象徴であり、息子はミクロネシアで最も古い文化を持つパラオに影響をうけた周辺の島々の人で、村人は近代武器を持つ欧米人、日本人と考えたい。
古い歴史を持つパラオは、今では台湾、グアム、フィリピン、沖縄といった周囲の島国の協力、影響を受けている。一方、文明の利器を持ちこんだ先進国はパラオの生活を向上させたが、
それによってもたらされた海面上昇や、地球環境の変化によりその島は沈んでしまった。
私は自分の無知と無礼を恥じるとともに、寛大で作法を知る彼らに感銘をうけ、教えられた。
そして
彼らは、私に今の地球環境問題と大震災についてのメッセージを託したのかもしれない。