山の環境保全と整備

Katzu

2012年08月14日 03:48



 みちのく朝日連峰の大朝日岳に登った。
登山シーズンであったが、お盆の直前で登山客も少なかった。
衛星電話しか通じない古寺鉱泉は、秘湯にふさわしく
そのたたずまいは昔と変わらない。



人の手の入らない山の景観は変わらないが、
標高1,000m以上の山域の環境で変わったことがある。



1、水場に人慣れしたネズミがいたこと。
2、大量に小さな甲虫類の虫が発生していたこと。
3、枯れたブナの枝が多かったこと。
4、巨大ナメクジが小さくなったこと。
5、立ち入り禁止区域が増えたこと。





 これらは、人の行動と地球温暖化と無縁ではない。
登山客のえさを求め動物が移動し、暖かくなった山域に
ウエツキブナハムシが大発生し、ブナの葉を食い荒らす。
高温乾燥化すると、低温湿潤化で生きる生物が減っていく。
それでも、人の出入りを制限したエリアでは、
動植物が再生されていく。
立入り禁止の大朝日小屋周辺は、かつての露営適地でもあったが、
現在は見事な高山植物の群落となっていた。



 一方、人為的な植生回復は難しいという印象を持った。
数年前から、植生回復モニタリングを行っている金玉水付近は、
少しづつ回復しているものの、もともと雪渓谷の崩壊地でもあり
裸地の状態が続いている。

登山路の整備の課題も見えてきた。



数年前から、土砂流出を抑えるための植生ネットが導入された。
これは景観に配慮した多自然型の製品であるが、植生が回復せず
自然分解せず残存した場合は、むしろ歩行と景観の阻害物となる。

 山の管理は、地元主導の自助努力で行われてきた。
山道が崩壊した後、整備された手作りの木の階段は、登山者にとって
ありがたく、設計者が舌を巻くほどアイデアに優れたものだ。



 現在は環境省の国立公園の管轄として、整備の指導が行われているが、
公共団体が管理できる登山道となると、やはり石の階段となる。
これは登山者にとっては、遊園地の階段を歩くようで、
歩幅が合わない人もおり、非常に評判が悪い。
せめて石の自然配置を基本にした石組にすべきであろう。



 山道の崩壊、高山植物の減少は、登山者のステッキや、
露営地、山道の多枝選択により行われたとする解釈もあるが、
一日数千人の北アルプスと、数十人の東北の山では全く条件が違う。
せっかく無人登山者交通量計を設置したので、
全国一律でないその山にあった保全整備の方法を考えるべきだろう。



 大朝日小屋で環境省の若い指導員が、訪れていたので話を聞いていたら、
国交省とやりとりをしている気分になってきた。
日本の伝統的な山の管理と登山ルールを守っていけば、
日本らしい山の環境は守られると思うが、
海外の保護区域の管理の仕方を踏襲すれば、入山制限、ガイド付随義務、
環境税の導入なども視野に入れるべきなのだろうか。

 でも、その前に環境省のやるべきことは、
この山域が世界的に貴重なブナの原生林であることを、
セミナーや教育の場を通じ、地元から理解を深めてもらうことだろう。





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