金で買う環境

Katzu

2014年06月30日 19:19



 早朝4時頃、鳥のコーラスで目が覚めた。カッコー、ウグイス、ルリ、コガラ、、、
7種類ほどの聞いたことのない声を聞き分けながら、テントの天井をじっと見つめていた。
梅雨の合間に晴れた尾瀬沼湖畔の、今年一番の幸せな朝だった。
陽の光と気温、音を体が自然に受け止めていく天幕生活の魅力でもある。
そのうち、カラスの鳴き声と隣のいびきがそれを打ち消していった。
カラスは都会だけでなく、山奥にも行動範囲を広げている。




原発事故後、『寂しい尾瀬・遠い客』と揶揄された尾瀬が気になっていたが、
観光客の少ない梅雨の時期に久しぶりに訪れることができた。
尾瀬の観光客は昨年35万人が訪れたがそれでも最盛期の約半分にすぎない。
その多くは、登山小屋のサービスを受ける高齢者のツアー客である。



 尾瀬の開発と観光の歴史は、日本における自然保護活動の歴史でもある。
同時に、大正時代の水源開発、昭和の観光道路開発廃止、その後の環境保護活動は
そのまま、平野長蔵氏、長英氏、長靖氏の三代にわたる歴史でもある。



この水源開発を主導的に行ったのが東電で、原発事故後は土地や施設の売却も検討されたが、
現在も尾瀬の40%の土地所有者であり、毎年木道整備などに数億円の維持費を計上している。
そのこと自体は悪いことではないが、所有者が誰に変わろうが、自然環境の維持にはお金がかかる。
新しい長蔵小屋建設にともなう廃材投棄がマスコミに取り上げられ問題になったが、
もっと目を向けるべき環境問題が尾瀬にはたくさんある。



 創始者の名を冠した長蔵小屋から長英新道を通って燧ケ岳に登ると尾瀬沼がよく見渡せる。
この閉塞された山峡の地に年間30万人もの人が来るのもことも驚きであるだが、この環境を
維持する難しさと、厳しい自然環境のなかで観光客を受け入れる側の労苦は計り知れない。



トイレは合併浄化槽で共同運営されるため、100円か200円の協賛金が収集されている。
特にツアー客の中には、高い宿泊料を払っているのでとためらう客もいると聞くが、
宿泊客の食事運搬・廃棄だけでもかなりの人夫負担となり料金に跳ね返る。
すべて持ち帰ることを念頭に置く天幕行の人達は、トイレの有料化は理解できる。



尾瀬沼は富栄養化が進んでいるとの報告がある。
流入付近では弱酸性であった水質が、山小屋等の排水が流入する下流では中性になるという。
河が茶色く見えるのは、鉄分・マグネシウム分が多く、河床だけでなく表面に滯水するためだが、
かつてヒメマス養殖に失敗したように、現在はイワナ、マス類よりギンブナが湖岸に見られる。
世界的に起きている湖や高層湿原の枯渇は、一部の湖岸浸食を除き顕著には進んでいない。
水門設備による調整という人間の手による水量管理が行われているためである。



最近はニホンジカによるニッコウキスゲの食害が見られるようになり、関東森林管理局により
尾瀬沼に通じる木道の入り口に、シカの立ち入り規制柵が建設中であった。
建設作業員と測量技師は、高価な登山小屋には泊まらず、檜枝岐村の集落から毎日往復する。
彼らは災害時には率先して現場に向かわなければならない大変な業務だ。



湿原までのマイカー乗り入れ規制は、自然環境保護施策の先駆となり多くの人に理解されている。
国道352号の御池・沼山峠間は、集中豪雨の影響で道路崩壊箇所が5か所ほどあり、
現在は、かろうじてバス1台が通れる状況で工事が進んでいる。



登山道の崩壊も激しく、至仏山は登れず、燧ヶ岳の3ルートは封鎖中であった。
道路の維持は尾瀬行楽客のためだけでなく、崖面崩壊が洪水を引き起こすために工事は欠かせない。
本格化する豪雨の季節を前に心配であるが、近年の異常気象で土木公共物の維持費は増え続ける。



 環境省のビジターセンターで話を聞くと、自然保護の方法論も管理団体や利権や対象に違いがあり、
観光と開発の狭間で揺れ動きながら、一貫した方策を探しながら苦慮している様子がうかがえた。

尾瀬に来れば、土木行政の姿、自然保護団体の姿、観光開発の姿、環境ボランティアの活動などから
日本のかかえる環境問題の現実を突きつけられる。

不確実性気候の時代、自然環境の維持には莫大な金をかけなければ維持できない段階にきている。

一方、若い職員の努力も空しく、『環境を金で買おうと思うな環境省』、という一般の声があることを
知ってか知らずか、大臣自らがそのことを肯定してしまったことに対して残念に思う。



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