やんばるの林道整備

Katzu

2013年07月03日 00:40



 やんばるの森を縦横に走る林道は、既存の林道に加え、1993年に開通した
広域基幹林道である大国林道の完成により、総延長は118kmとなった。
当時は多くの反対運動があったが、ダム建設による管理用道路、農業改良事業、
観光開発などの理由のために費用対効果を無視し建設された。本土ではすでに
スーパー林道開発が里山を壊し、維持管理ができず虫食い状態に残り、
予算の関係や自然保護団体の反対もあり、新規路線の建設は中止されていた。



 自然条件が厳しく、交通量の少ない林道の寿命は短い。沖縄北部の土は、
『国頭まあじ』と呼ばれる赤土を表土に、砂岩・粘板岩の中生代の地層構造を成す。



西海岸沿いには断層が走り、名護断層は本部半島を南北に断った構造線である。
海からの湿った空気は、晴れた日でも霧となり山を登り、シャワーの後に虹が出て、
苔、シダ類やイタジイなどの生える、亜熱帯でも類まれな照葉樹林を育んだ。
このような、厳しい建設環境で作られた構造物を維持することは難しい。



現在は林道の至る所で地滑りによる路肩崩落、法面崩壊が起きており
通行止め区間が3か所ほどある。カーブ付近では苔がついている箇所も多く、
1車線通行箇所もあり、以前見られた2輪車の愛好家の姿は見られない。



 観光としての森林公園は、耐用年数を経た木造構造物の維持が厳しく更新の時期を迎えた。
この年代の構造物は、バブルの崩壊から、前安倍政権の提唱した『美しい日本』に至る時代に、
多自然型、自然の材質が推奨され、高級木材の製品がはやったものである。
ボンゴシ、イぺ材などの本末転倒の輸入木材を使った結果、メーカーの言う20年耐用はおろか、
日本の厳しい環境下では5年もたなかった製品もある。
地元の予算でこの林道と周辺施設を維持していくのは、ますます困難になりつつある。



 この林道開発により、生活と生命を脅かされたのは希少動物達である。
林道開発は交通量のない無用な林道に比べ、東西海岸を結んだ県道は
交通量が増え、多くの希少動物のロードキル問題を引き起こしている。
現在、野生保護センターや各自治体、NPOを中心に保護活動が行われている。

 人間が造った物の問題は、人間の手で解決しなければならない。
ヤンバルクイナの出現する場所は谷部に多く、その時の行動を見ると、
ロードキル問題は、道路構造の問題でもあることがわかった。

その対策は、エコロードなどの環境共生事業により道路改良、側溝整備が
行われてきたが、その多くは、緻密な設計・施工を試行錯誤したわけでもなく、
2次製品により均一的に設置されてきたにすぎない。研究者・設計者・施工者・
発注者・管理者・利用者が、一緒に協議しなければ、実現できない事業である。

エコロードとして有効に機能するハードな道路改良法は、

1.大断面の暗渠部は橋梁とし、路面横断はグレーチングをなくし、600mm以上の暗渠構造とする。


    300mmの横断側溝ではただの泥溜めとなる。 

2、横断排水桝を道路外に出す。桝だけではなく取付け水路を確保する。


     流出入水路が埋まっている例が多い

3、路面排水桝の外側を箱抜きする。


     このわずかな隙間からヤンバルクイナは脱出して行った。

4、切通し部の路面排水桝をなくす、あるいは切通しをなくし、横断方向の排水路を設ける。


  凹部縦断の切通し部は最悪の条件で、桝を大きく外に出しても逃げ場がない。


ロードキル区間の横断水路は1000×1000を基本にしている道路もあるが、
路面排水路を含むすべての暗渠と桝の余裕をとり、道路用地外の水流を確保すべきだろう。


   開発により水路を整備しても、横断管渠が小さく路面冠水する箇所もある。

 人間が造った小動物保護側溝や動物用橋梁、営巣シェルターなどは万能ではなく、
動物が利用せず、箱物の効用に懐疑的な例が多い。道路勾配がきつい箇所では
生物が斜路にたどりつけない、あるいは、這い出せても逃げ出せないような箇所が多い。



『這い出せる側溝』は、一度採用されると全国のコンクリートメーカーがこぞって販売し、
具体的な設置場所や対象動物の行動研究をする間もなく、試験的に納入された例が多い。



モニタリングの結果はともかく、石の詰まった側溝や壊れた路肩が目立ち、
排水の用を成さない箇所が多く、道路の維持管理の必要性だけでなく、
人の通行が危険な状況の方が、むしろ気になってくる。

ロードキルの懸念すべき原因の一つは、人間の捨てたゴミが
野生動物の性質までも変えてしまっている事実がある。



 大国林道の南口から、マングースの北上を阻止する柵を開き入り、また
閉じる時、人間と野生生物とのテリトリィがあるSFのシーンを思い起こすが、
むしろ、そのバリアを取り除く方法論のことをずっと考えていた。







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