梅雨空のやんばるに集う生き物たち

Katzu

2013年05月31日 23:40



 梅雨の晴れ間、やんばるに向かう。
この時期のやんばるの森は、生物が活気にあふれ、ざわめく様が魅力である。
やんばるの森は、イタジイ、タブノキなどの照葉樹林で、シロユリの花が終るこの季節には、
白いイジュの花が森の緑にひときわ映える。
林の中は、なぜかキンモクセイのような柑橘系の香りに包まれる。
植物の開花と動物の繁殖期が重なり、5月の森は生命に満ち溢れていた。



 突然のノグチゲラのドラミングに驚きながら、
別のきれいな声に耳を澄ますと、ホントウアカヒゲが道を導くように、
近づくと先に逃げまた追いつく、を繰り返す。



キツネの嫁入りにもよく出会う。
薄日がレーザー光線のように差し込む藪の中で、しずくが落ち空を見上げると、
ジャングルにポッカリあいた青空がら、水が光とともに落ちてくる。



クワズイモの下にしゃがみ静かに時を待つ。



すると、今までに気が付かなかった生き物たちに出会う。
通常は茶色いはずが、なぜか青いオキナワキセルガイ?が枝にぶら下がり、
平らな巻貝のカタツムリのオオカサマイマイが葉の裏と表に2匹いる。





オキナワウスカワマイマイが2匹先を争うように、クマタケランの花をよじ登っている。
湿気の多いやんばるは、本土では珍しい陸生貝類の宝庫なのである。



茂みに目を凝らすと、リュウキュウルリモントンボの雌雄が葉にぶら下がっている。
名前通り瑠璃色の美しいイトトンボで有名であるが、雌はなぜか黄色であった。



水たまりにはシオカラトンボとリュウキュウハグロトンボが盛んに行きかう。
泥の上には迷彩デザインのイシガケチョウが吸水している。





山道を歩けば、シリケンイモリが這っている。イモリは池にいるアカハラしか見たことがなかった。
やんばるは降水量と湿気が多く、両生類の住みやすい環境なのである。



森の虫たちは擬態が多い。



植物でさえ、全身緑の擬態で森を作っているかのような錯覚さえ覚える。



開花時期の蝶たちは、この時ばかりと喜び勇んで飛び回る。としか思えない。







アサギマダラ、モンキアゲハ、ツマベニチョウなど、花に止まる時間を惜しむほど動き回る。
鳥のように舞う大柄な蝶たちを、口をあけて空を見上げる。

3時過ぎ山を下り、林道をぬけ、安田の人家近くの県道70号を走っていると
ヤンバルクイナが側溝に逃げ込んでいった。
彼は路面排水桝の箱抜き面から出て、斜面を登って行ったようだった。
そもそもロードキル問題は、人間の作った道路に原因がある。
昼のヤンバルクイナは水流をたどり水辺に来る。
道路が谷を遮断し、沢が暗渠構造になったために、ヤンバルクイナは側溝の路面桝に来るのである。



 やんばるの森は本土にはない固有種の宝庫で、魅力に満ち溢れている。
与那覇岳周辺を散策するだけで多くの固有種に出会うことができる。
しかし、その多くはすでに準絶滅・絶滅危惧種である。
今日の目的だったアオミオカタニシは、まだ目にしていない。
沖縄ではオールーチンナンと呼ばれ、人に聞くと〝良くいるよ〟と返答が来るが、
すでに準絶滅危惧種に指定されている。生きたトルコ石とも呼ばれ商取引されている。
南洋ではアフリカマイマイにより個体数が減り、鹿児島県ではすでに絶滅したと言われる。



この森に集まるのは虫や鳥ばかりではない。
単独行の外人青年、何かの虫を捕りに来たタッパーだけを持った男、デカいカメラを持った女性、
大きな捕虫網を持って追いかける地元の老夫婦。
一目で、ある目的を持って来ていることがわかるある種の人間たち。
彼らは、雨上がりの森に虫が動き始めることを知っているのである。



 立場の違いこそあれ、人間の所作が自然環境を変えていく。
そうなる前に、今この森を見ていきたいのである。
水族館で海の生物を見せても、やんばるの森の生物を見せたいと思う親が少ないのは寂しい限りである。



 環境庁は奄美・やんばるの国立公園化を進め、政府は自然遺産の暫定リスト化を決定した。
順調にいけば3年後には世界遺産に登録されるだろうが、その足かせとなるのは、
やんばるの大半を占める米軍の北部練習場の返還問題である。

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