やんばるの森の声

Katzu

2013年06月12日 10:42



 与那覇岳に登る途中で、ノグチゲラのドラミングに驚いて以来、何度もやんばるの森に足を運んだ。
あの正確無比の力強い音をもう一度聴き、その叩く姿と振動を確かめたかったのである。
やんばるの5~6月は鳥の繁殖期で、多くの鳥がさえずり動き回る。
ノグチゲラはイタジイの木に穴を掘り営巣する。
同じキツツキ類の本土のアカゲラも同様であるが、体も少し小さく音も小さい。



 森に入ると様々な鳥の声がする。
ツツピー、ツツピーとオキナワシジュウカラがかなりの高音域で鳴いている。
山道を登っていくと、またホントウアカヒゲが興味を持って近づいてくる。
ツグミ科の小鳥で姿だけでなく、かなりの美声の持ち主である。



 大蛇のようなヒカゲヘゴの倒木に驚きながら、飛び越え沢に至ると、
水の音が大きくなると、ヒュルーヒュルーと声が聞こえる。
姿が見えず、はじめはトンビかと思っていたが、調べるとリュウキュウアカショービンの声だった。
静かにしていると、ト、ト、トと小さなドラミングが聴こえる。
前回のドラミングとは違う。木に登る姿を見ると、縞模様のコゲラであった。



 山の9合目付近で突然、タ、タ、タ、タと低く速いドラミングの音が聴こえた。
前回は音のする方向に向かい見失ったので、今回はしゃがみ込み時を待った。
しかし、聞こえたのはこの時だけで姿も見えなかった。
既に巣作りも終わり、繁殖期に入っているのかもしれない。
やんばるの森にはカラスも多い。都市に生活の場を移したカラスも多いが、
依然として、やんばるは食物連鎖の生物多様性の森である。



 山を下り、安田の見晴台のパーキングにいると、ヤンバルクイナのクィクィという鳴声が聴こえてきた。
夕暮れに聞いた、クェクェという奇怪な声とは違う声であった。
姿が見えないので、かわりに安田のヤンバルクイナ観察小屋に話を聞きに行った。
ここではカメラモニターで生息地の3地点を観察している。



ヤンバルクイナは、個人的には以前より見かけるようになった気がする。
しかし、交通事故死が増えているのは、交通量が増える一方で、個体総数が増えたためではない。
縦横無尽の林道開発とマングースの北上により、生育区域が限定されてきたためである。
そのクイナの性質も、人間との距離が縮まったため、変わりつつあるという。



 広大なやんばるの森を占めるのは、立ち入り禁止の米軍演習場である。
フェンチヂ岳の山頂からは、広大な安波川流域の米軍演習場が望める。
この山から海に至る、モクモクと緑が湧き出るような広大な渓谷景観は、今まで見たことがない。
この森には砲弾を恐れながら、まだ多くの生物達が潜んでいるのだろう。



夕方、環境省の野生生物保護センターに戻ると、マングースバスターズ達の車が仕事を終え、
帰ってきたところであった。彼らとは山で何度か出会ううちに、様々な情報を提供してくれる。



 この日はノグチゲラのドラミングは5秒しか聞けなかったが、
この不思議な森の音に聴き入るとますますその魅力に引き込まれてしまう。
やんばるの鳥の声は、時に人の声にも聞こえ、
その容姿とともにキジムナーやブナガヤの伝説が生まれたのだろう。



 もうすぐ夏になると、やんばるの森はセミや虫たちの声に包まれる。

参考:やんばるの音サウンド集

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