2013年01月09日

変わる交通環境

 交通環境の変化は、交通技術の発達や、交通インフラの整備だけに
よるものではない。特に、公共交通を取り巻く環境は、
近年の経済情勢や利用者の変化により、大きく変わろうとしている。

 経済のグローバル化、低コスト化競争により、
運輸関連の企業戦略も変わりつつあり、特に航空業界は、
LCCのもたらした低廉化の競争により、激しさを増している。
羽田、成田、福岡各空港に次いで発着便の多い那覇空港には、
現在5社のLCCが参入している。
那覇-成田便は3社がしのぎを削る。

変わる交通環境

 一方、都市間交通は、民営化したJRの低廉化が進まない内に、
低価格の高速バスの参入が顕著になった。
その結果、海外は成田空港から、国内の遠距離は羽田から地方空港へ、
中距離はJR、近距離はバスと自家用車という交通利用のパターンが崩れ始めた。

 大量に、早く、安全に、快適に、が交通の4大原則であるが、
最近は地球環境問題により『エコ』の要素が加わった。
さらに、少子高齢化、デフレ経済により、『大量に』が、
個人のニーズに合わせ多様化し、むしろ『安価に』が交通の重要な要素になった。

 例えば、那覇―成田間のLCCは3,000~6,000円、東京山形間の高速バスは、
3,500~5,500円であり、成田-東京間を1,000円とすると、
那覇―山形間は、組合わせにより1万円で移動可能となった。
これは、大手航空会社の最安値の半額以下、
あるいは、東京までの新幹線の運賃と同額となる。
バスを待つ間に、体を温めるために飲んだ飲代と、
高速バス代が同じというおかしな時代になった。

変わる交通環境

 課題となるのは、定時運行、安全性の確保、搭乗時間の短縮、
切符確保の保証などがあるが、ルールとリスクを理解し利用すれば、
公共交通としての条件をクリアしている。
数年後、数社に淘汰され価格も落ち着くだろうが、
この交通機関の選択肢は、確実に定着するだろう。

 交通環境の変化は、ハードなシステムだけでなく、
移動中の客室環境にも及んだ。
交通のグローバル化、交通ビジネスの多様化は、利用客層の変化をもたらした。
外資系のLCCは、多くの海外旅行者を運んでくる。
国内旅行客は、低コスト化により、若者と幼児を含む家族連れが増えた。
LCCの機内は、日本人の赤ちゃんのとなりに、回教徒のひげおじさんが座るような、
生きたグローバルな社会が垣間見れるのである。

変わる交通環境

 公共交通機関の限られた空間では、様々な人種の特徴が明らかになる。
時間に厳しい日本のビジネスマンは、まだLCCを利用しない。
現在は、時間に融通が効く低所得者層が利用する傾向にあり、
旅慣れた人には騒々しく感じる。
10年前にLCCが一般化した欧米の様に、ビジネスマンが手軽に利用できる環境が
整うまでには、まだ時間がかかりそうだ。

欧州では、LCCがライフスタイルを変えたとさえ言われる。
海外の別荘を安く買い、1国の宰相でさえ、
週末は家族とLCCで移動する、というスタイルが定着した。
LCCに偏見を持つ人・企業は、グローバル化の波に既に乗り遅れている。
最近の高速バスも高級化し、列車より温かく静かで、
かつての狭く、つらいイメージはなく、列車より快適と感じる人もいるだろう。

自由な交通の選択肢の多様さが、その国の交通の成熟度を示す。

 日本人はいつから公共の場で、他人との関わりを拒むようになったのだろう。
他人を思いやる公共のしきたりは、欧米から理解され、
発展途上国の一部から絶賛されても、多くの国では理解されない。

変わる交通環境

 昨年、旅行中のラオスのバスの中で、地元の青年が車酔いで苦しんでいた。
一応声はかけたが、死にそうでもないし、隣の女性が介護していたので
その様子を静観していた。その後、見兼ねた一部の欧米の観光客が、
バスを止めてと騒ぎ出し、運転手に懇願した。
バスは無情に走り続けたが、運転手はバスのドアを開け、
彼に風の当たるステップを指し、彼は移動した。
それから10時間後、バスは何もなかったかのように、ビエンチャンに着いた。

他人と関わりたくない日本人、オーバーアクション気味の外国の観光客、
冷たそうだが毅然とした態度の地元運転手。ボランティアと過度のお節介、
自立と援助、規則と機転、様々な違いを教えてくれた。
これが、日本だったらどうなったことだろう。

恐らく彼は誰にも干渉されず、一人苦しみ、結局、同じ結果になったかもしれない。
しかし、彼は多くの人と接し、多くのことを体験し、知ったことだろう。

これから日本人も、自分と違う環境で育った人間と、公共の場で接するうちに、
車内環境も少しづつ変わって行くことだろう。

変わる交通環境

狭く暗く、一人づつ隔離された夜行バスの中で、そんなことを考えていた。



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