2013年05月11日

少数民族と地球環境問題

 世界の紛争地域は、そのほとんどが民族紛争に端を発するものである。
紛争の理由は、資源を巡る紛争、宗教を巡る紛争、領土を巡る紛争、政治思想を巡る紛争に分類される。
アジアの紛争地は、州規模でみると45箇所ほどもある(外務省渡航情報より抜粋)。
紛争のない国は、韓国、台湾、ベトナム、シンガポール、ブルネイ、モルジブ、モンゴル、日本だけである。
渡航規制のパキスタン、北朝鮮を除く外の国は、何らかの民族紛争が起きている。

少数民族と地球環境問題
     UPPSALA University Conflict Database

紛争地域は、国境未確定地域、少数民族支配地域に多く、都市近郊の丘陵部から海岸地帯に至るまで
分布する。その武力行使は、クーデター・テロ以外は、多数派が少数派を駆逐する形で進行する。
少数民族は、その地域を古くから支配し、環境・文化を代々引き継いできた。
そして、その少数民族の土地を収奪することで、地球の環境は変わってきたとも言える。

現在の紛争地は、人の命が失われる陰で、とてつもない環境の変化が起きようとしている地域でもある。
現在進行中の開発は、人跡未踏の地は少なく、人の住む地域に近い土地を選び、付加価値の高い
工業団地や港湾建設を行う。山峡の地では、道路や橋梁、電力開発などの線的開発が優先する。

 ミャンマー北東部は開発スピードが速まり、エネルギー利権競争と環境破壊が進行する地域である。
中国の合弁企業が進めるミッソンダム電力開発は、少数民族カチン族の支配するイラワジ川の上流域に
計画された。カチン族は、その風光明美で生活の中心である川の環境と民族の歴史が失われるとして、
強制移住に反対し、計画を進める国軍と戦闘状態にある。

少数民族と地球環境問題
          イラワジ川マンダレー付近

サルウェン川は、日本のODAも含めたタイの電力輸出のダム開発のため、シャン、カレン、カレンニ―の
少数民族が強制移住させられ、シャン州軍と国軍との武力衝突が起きている。中国企業による
ザガイン州の銅山開発は、環境汚染、立ち退き補償に対する不満から暴動にまで発展している。

来日したアウンサンスーチー氏が、京大の講演で、、
『少数民族問題は私でも解決できない。』 と語ったことが印象的であった。

少数民族と地球環境問題
       イラワジ・サルウェン川ダム開発計画

 経済の発展は、少数民族の生活の場だけでなく、自然環境にも大きな影響を与えている。
インダ-族の暮らすシャン州南部のインレー湖周辺は、水上リゾート開発と水上農園の開墾で
水質汚染が進み、水上集落の自給自足の生活が脅かされつつある。
それは、ヤンゴンなどの大都会への野菜供給ビジネスが過熱しているためである。

現地を見ると、古い地図とは合致しない田畑が広がっていた。
最近、湖水から日本では使用禁止されているDDT、BHC等の、中国製農薬による
汚染が確認され、湖水の飲用が禁止された。


少数民族と地球環境問題
          インレー湖水上農園の拡大

 少数民族が生活と歴史を守ってきた川の環境の変化は、さらに地球の気候変動が
追い打ちをかけている。乾季には川の水が減り、イラワジ川でさえ、舟の航行にも支障が
出るほどになり、雨季が本格化しない今年は、危惧したとおり干ばつに近づいた。

少数民族と地球環境問題

先週のビルマネットニュースによると、サルウェン川支流のインレー湖は水量が減り、
湖の入口の深さが1mと例年の3分の1になり、舟の出入りが難しくなったと報じた。

 ヤンゴン近郊のティラワ経済特区では、日本の出資による工業団地開発が進んでいる。
サイクロン被害の軽減とマングローブ再生保全の二律背反の選択が計画のカギである。
タイが支援するダウェー地区はカレン・モン族が多く、中国が支援するチャオピー地区は
ロヒンギャ族の紛争を抱えている。

あまりに速い経済と環境の変化に、戸惑いと驚きを持って接している。

 マイノリティが守る地域の環境を、周囲の大国が競って奪い取り、
ますます地球環境の悪化につながる悪循環を生む現実に向き合うと、
助けるべき相手と、向けるべき矛先を見間違えてしまう。



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Posted by Katzu at 13:56│Comments(0)アジア
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