2013年07月25日

暖流と寒流のクロスロード

暖流と寒流のクロスロード

 飛島は日本海に浮かぶ孤島である。
酒田港から船に乗ると、出羽富士と呼ばれる鳥海山と飛島が対比した形で表れる。
伝説によれば、飛島は鳥海山の噴火した岩によりできたとされる。

暖流と寒流のクロスロード

秋田にも田沢湖から八郎潟を作った八幡太郎伝説があるように、
東北では、天変地異が山と海の一体的な環境を築いたと言える。
荒崎の浜の近くには、10トンクラスの津波石も見られる。

暖流と寒流のクロスロード

 飛島の最大の魅力は、亜熱帯生態系の最北端の地であることである。
年平均気温は12℃で、暖流の影響で山形県の北端にありながら、県内で最も気温が高い。
黒潮から対馬海流に乗って、南から多くの生物がたどり着く。

暖流と寒流のクロスロード

タブノキは亜熱帯の常緑高木で、沖縄のやんばるの森などに多く育つ。
その群生地の北限地が、この飛島に当たる。
巨木の森や神社の境内には、樹齢300年ほどの老木が、枝を手のように広げている。
島内の斜面には笹竹が覆い茂り、その山道のトンネルはまるで亜熱帯の森のようだ。

暖流と寒流のクロスロード

 飛島は渡り鳥の中継地点として有名で、宿にはバードウォッチング記録帳があった。
特にウミネコの繁殖地としても有名で、百合島周辺は海鳥のサンクチュアリである。
人一人いない北の海岸を歩くと、鋭い鳴声の鳥が、頭上近くを何度も威嚇しながらついてきた。
営巣中のつがいで、南の無人島で何度か経験したアジサシのような鳥だった。

暖流と寒流のクロスロード

暖流と寒流のクロスロード

 沖縄で良く見られるアオスジアゲハは、東京でも確認されるが、亜熱帯のこの蝶は
この飛島を北限として生息している。砂浜や水辺につがいで忙しく飛び回っていた。

暖流と寒流のクロスロード

海の中も同様である。観光案内にはウミシダやソフトコーラルの写真があり、
サンゴの北限地として知られており、ムツサンゴ、オノミチキサンゴが確認されている。

暖流と寒流のクロスロード

 船宿や港で漁師に話を聞くと、最近はマグロやサワラなどの南洋系魚の漁獲高が
増えているという。庄内浜で捕れたと話題になった沖縄のグルクンやブダイの話は
聞かなかったが、フグ類が増え、漁獲は減っていると嘆く。

暖流と寒流のクロスロード

人間も同様に北上し、この島に流れ着いた。
平家の落人が刀剣、武具を埋めたという塚もあり、江戸時代には北前船の中継地点として繁栄した。
平家の落人伝説は全国に広がっているが、この源氏盛・平家盛は史跡として残る最北の地であろう。

暖流と寒流のクロスロード

テキ穴は、岩の節理面にできた不思議な空間で、平安時代の人骨が発見されている。

暖流と寒流のクロスロード

暖流と寒流のクロスロード

 島の西海岸にある明神の杜には、南方海女族の伝説が残り、
沖縄の城壁やひんぷんに似た石垣があると案内書にあった。
行ってみると確かにその石垣デザインは、朝鮮や今帰仁城の城壁に似ているが、
石の種類と積み方は、もっと南洋のナンマドール遺跡を思わせる。

暖流と寒流のクロスロード

柱状節理の岩を、対岸の島や山から切り出したと思われるが、
すぐ近くの海岸には庭石として最適な美しい玉石が多くあり、
玉石積みの方が簡単であったはずだが、なぜわざわざ運んだのだろう。
現在でも、この賽の河原の石は持ち出すと災いがあると伝えられている。

暖流と寒流のクロスロード 

漂着物を調べると、日本、中国・韓国、ロシアからの3方向から集まってくることがわかる。
北側海岸には材木・ウオッカの瓶など寒流に乗ったゴミも見られる。

暖流と寒流のクロスロード

 北東側には法木という小さな漁村がある。
この地形では漁村同士を結ぶ道路はなく、海からの移動がメインで、
この村は単体として独立し機能していたと推察される。

暖流と寒流のクロスロード

この街並みは、日本の古い漁村の姿を残している。
風が強く屋根は黒瓦、建物は妻入りが多いが、その二階部分には窓がない。
雪国では、通路に軒先から雪の落ちる平入りは少ないが、この地は雪が少なく平入りもある。

暖流と寒流のクロスロード

集落北側のオボケの浜には、漁具や漂流物に混じって、様々な貝、生物の骨が見られる。

暖流と寒流のクロスロード

暖流と寒流のクロスロード

飛島は、確かに観光パンフレットにあるように不思議アイランドである。
その実態は、暖流と寒流の織り成す、壮大なスペクタクルから生まれた島の歴史とその自然環境にある。

暖流と寒流のクロスロード

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Posted by Katzu at 03:03│Comments(0)海の環境
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