ヤンバルクイナの郷

Katzu

2014年12月21日 22:17

 

 国頭村安田(あだ)は、やんばる北部の東海岸にある集落である。
幹線道路から離れているため観光客も少なく静かで、
単独コミュニティとして沖縄本島に残る数少ない村落の一つである。

昨年参加した安田のシヌグは、国指定の重要無形文化財であり、
古い沖縄の伝統・祭儀が今も受け継ぎ残されている。



自然環境が豊かなやんばる地域にあって、
安田は最もヤンバルクイナが確認される地域である。
ヤンバルクイナは、東海岸の奥集落から安波集落にかけての
県道70号と、横断道路の県道2号沿いでよく見られる。
その核心部に当たるのが安田集落の山域なのである。



 この日は辺戸名から県道2号で横断したが、見かけなかったため、
最近オープンしたヤンバルクイナ生態展示学習施設に立ち寄った。
この施設は、国頭村の施設でNPO法人やんばる・地域活性サポートセンターが管理し、
野生動物の保護救護活動を行うNPO法人どうぶつたちの病院沖縄が飼育している。
同地区にある環境省のヤンバルクイナ飼育繁殖施設とも連携して、
個体の維持・繁殖を図りつつ、一般の人への説明を行っている。



 二人の館員がクイナの性質や飼育状況をガイドしてくれた。
丸々太った一羽の雌が飼育されていた。
冬に備え太る傾向にあるが、それでも餌の量は通常の半分にしているという。



給餌の時間になると、突然すごいスピードで駆けてきた。
道路からあわてて土手を駆けあがる、あのスピードだった。
人を警戒することなく餌をついばんでいたが、突然また走り出して草陰に隠れた。
カラスが空中を飛んで行ったためだと説明があった。



カラスは山奥にも生育し、ノグチゲラなどの巣の雛を狙い、
ヤンバルクイナの成鳥も襲うことがあるという。
北部訓練場を飛来する米軍ヘリには、どれほど驚き
人間以上のストレスを受けていることだろう。




 安田集落は人口200名、格子状の街区で構成され、共同売店、診療所、小学校、
派出所など基本的な施設が1軒ずつあり、それぞれ個性的に村づくりに貢献している。



集落には2軒の民宿があり、河口に近い民宿に泊まった。
畑も作っているらしく、魚主体の朝夕の食事も新鮮で、満足のいくものだった。




 昨年のシヌグの時には、集落内は数百人の観光客であふれかえっていた。
離島に残る豊年祭と同じく、前日の神儀から始まり、神人からみそぎに
至る祭りには、遠い南洋に通じる壮大なロマンがあった。




夏の朝にはヤンバルクイナの鳴き声が響き渡り、村のはずれに降りてくる。
春の繁殖期には、つがいの鳴き合う声がさらに大きく、出現回数も増えるという。



夜1時頃、対岸のマングローブの森から、ヤンバルクイナの鳴き声が聞こえ、目が覚めた。
外に出ると雲も晴れ、ひんやりとした空には冬のオリオンが輝いていた。



朝の河口は干潮で干潟が現れ、ヒルギの足が見えていた。
宿の女将も、食堂から川の移ろいゆく景色を眺められるのもいいものですよ、と語った。



同じ北部の沖縄に居て、これほど静かで心地よく、自然との境目で暮らすことを
意識する住環境があることに改めて驚いてしまう。



ここは、沖縄本島に残る自然環境と歴史環境の
バランスのとれた最後の沖縄集落なのかもしれない。




関連記事