2013年12月23日

避難指示区域の村づくり

 福島県飯舘村は、『帰還困難区域』、『居住制限区域』、『避難指示解除準備区域』の
避難指示区域に3分割され、1年後遅ればせながら、全村避難を強いられた。
現在の里山と集落の状況はどうなっているのだろうか。

避難指示区域の村づくり

空間線量は、山形から宮城、相馬市までは0.1μSV/時以下であったが、
雪がみぞれに変わった南相馬市の山間部に入ると、急激に上昇し始めた。
その値は除染業務のガイドラインとなる2.5μSV/h (年間5mSV相当) 以下であるが、
一般生活で発がんリスクのなくなる0.23μSV/h (年間1mSV相当)にはまだ程遠い。
それでも除染効果と時間減衰により、村の北部拠点となる草野地区中心では
約0.50μSV/hにまで減少していた。

避難指示区域の村づくり

住民が避難した集落は、荒れた農地ととも維持管理の厳しい状況にあるが、
警防、行政機能を始め、金融、建設、製造業など民間34事業所が営業を続け、
ライフラインとインフラの維持は欠かせない。
村内の経済活動は、除染作業と土木・建築工事が中心である。

避難指示区域の村づくり

 飯舘村は、どこも経験したことのない困難な状況の中で、
村の復興計画を策定し、将来の村の姿を示している。
      飯舘までいな復興計画

計画の骨子は、住民の復村のための除染、インフラの再整備、生活支援である。
コミュニティの分断は、地理的な理由だけでなく、帰村意向アンケート結果が
『戻りたい人』、『戻れない人』、『戻りたくない人』に3等分されていることに象徴されている。
じっくりと腰を据えて、パズルをつなぐように粛々と進める強い意思の見える計画である。

避難指示区域の村づくり

 雪の降った里山には、採られることのない赤い柿の実だけが目立って残っている。
農家近くからは、残されたであろう、犬の遠吠えが聞こえる。
彼らは野山で野犬化することなく家の周囲で生きている。
給餌ボランティアの人達が、世話を続けているのである。
        飯舘村動物応援団

避難指示区域の村づくり

人の歩かない参道には、けもの道のようにサルやイノシシの足跡だけが残る。

 除染の効果は限定的で、困難な山林の除染や、土砂の堆積で
ホットスポットが流動することが懸念されていた。
避難指示解除準備区域でも、山林下の谷の落葉の上では、
空間線量は1.6μSV/hの、ある程度高い地点があった。

避難指示区域の村づくり


風雨、雪で洗われた標高700m山頂付近の岩の上ではどうであろうか。

その値は減少する予想に反し、市街地より高い2.0μSV/hに増えていた。
初期被爆時では、山谷の形状と距離減衰により、その分布状況は線量図から
ある程度予想できたが、2年経ちその分布はむしろ複雑で難しくなっている。

避難指示区域の村づくり

山の北側の霊山町の空間線量は平均的に低く、避難指示区域からはずれ、
国はホットスポットに特定避難勧奨地点を指定した。
しかし、このことがまちの複雑な問題を引き起こす結果となった。
同じ集落の中で損害賠償金の格差が生まれ、まちのコミュニティは分断されていった。

避難指示区域の村づくり

 現地や福島市内で話を聞くうちに、避難指示区域の村づくりの課題は、
自然環境の回復より、人間同士の問題に変わったことに気がつく。
除染作業が進まない物理的な課題はあるが、これから
この村づくりが進むためには、当事者以外の理解がカギを握る。

域外者であっても、放射能を正しく理解し、放射能の不安を払拭し、
この村のことを忘れず、関わりを持つことが必要なのでる。

避難指示区域の村づくり

 村を横断する県道12号の車両は、用事もなく逃げるように急いで通過していく。
この居住制限区域の最も高い線量の地点に、1年間住んだとしても、
累積被ばく線量がX線CTを1回受けた量と同じことを考えれば、
一時滞在のリスクは、限りなく微量であることは己ずと理解できる。
現在の放射能リスクは、原発の汚染水、初期被爆、除染されていない農地作物、被爆土壌の生物である。

日本を北上しながら気づいたことであるが、福島から距離が離れれば、知識も理解も軽薄になり、
不安から目をそむけ、偏った情報に流され、無意識に差別や風評被害へと進む。

愛知県以西で最も被災民が多く、いち早く受け入れを表明した沖縄でさえ、
神経質な内地の人と建設業界の思惑で、結いの精神が活かされなかったことを残念に思う。



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