2014年07月26日

台湾に学ぶ自転車交通計画

 台湾は自転車大国になった。
戦後日本の技術移転とアメリカの経済支援により、半導体、パソコン家電だけでなく
今や台湾の自転車生産高は世界一となった。最大手のGiantとMeridaの自国ブランドに加え、
海外大手の受託生産が成長しており、産業界全体でも施策の後押しをしている。

台湾に学ぶ自転車交通計画


台湾の自転車専用レーンは4000km、専用道路は600kmとなり
いまや全島一周の専用道路整備が進められている。
日本では専用レーンは2600km、専用道路は500kmにすぎない。

台湾に学ぶ自転車交通計画

台湾人の健康志向は、沖縄のサイクルイベントやマラソン大会に参加する人が
近年増え、その一緒に楽しむ姿からもある程度は予測できた。
早朝の陸上競技場では、平日でもウォーキング、太極拳、ダンスなどを
する人々が大挙おしかけ、生活を楽しむ姿勢が感じられる。

台湾に学ぶ自転車交通計画

           台東市内

 3年前の台湾はバイク天国で、市内では自転車を見かけなかった。
地方都市も同様だったが、わずかながら変化が現れている。
自転車利用が可能となり、シティホテルの提供する貸自転車でさえ、
ブランド生産の折りたたみ自転車であった。

台湾に学ぶ自転車交通計画

            高雄市内

台東市内を走って気付いたのは、自転車の専用化が難しい場合は
バイクと供用したことにより、お互いに走行特性を意識するようになった。
そのため、車間をすり抜けるバイク、歩道を我が物顔で走る自転車は減った。

台湾に学ぶ自転車交通計画


日本ではアメリカ型の交通計画を踏襲したため、平原を疾走するイージーライダーのバイクと
歩道を走るママチャリが競合するようなレーンの考え方は生まれなかった。
雑多な交通が混在するアジアの交通特性を見ると、日本の譲り合いの精神を封印した
戦後の交通政策は誤りだった、と設計者の立場で告白したい。

台湾に学ぶ自転車交通計画

2年前に自転車の車道走行をようやく認めた日本の交通施策の取るべき方向は、
バイクと同じ凶器となりうる自転車の専用レーン化、バイクの車間走行の禁止である。
両国の施工に至る違いは事業に至るプロセスの違いでもある。
総統のトップダウンで行う制度は即効性があり、瞬く間に自転車専用レーン化が進んだ感がある。

台湾に学ぶ自転車交通計画

反面、郊外では歩道構造の歩道部分を自転車レーンに指定したような区間や、
都市部では二輪車が歩道をふさぎ歩行者が車道を歩く場面も多く、
今度は歩行者より二輪車がプライオリティを持つ本末転倒の解釈さえ感じることがある。

日本の計画者は、現状を良くする方策を国の補助対象になるように計画する。
設計者は安く早く、会計検査に引っかからない右習いの設計を行う。
この結果、人の歩かない幅員5mの歩道、50cmの路肩、車の走らない道路
自転車と歩行者の混在する歩道、という矛盾のある道路が各地に造られた。

台湾に学ぶ自転車交通計画

台湾が進める自転車計画にサイクルシェアリングがある。
主要都市ではレンタサイクルのステーションをよく見かけ、
専用カードかクレジットカードで借りることができる。

台湾に学ぶ自転車交通計画

レンタサイクルは観光用ではなく市民の足として利用されている。
維持管理費が高くつく南の島国で、初期の設備投資が高く
収益性の悪い公共のレンタサイクル事業が成功したのはなぜか。

それは前述した一貫した政策と、市民の健康志向の高まり、自転車産業の後押し、
エコ教育の浸透がすべてからみながら機能したからである。

台湾のこれからの課題は、おばさんバイクの逆送や自動車の2輪レーン駐車、右折車の
巻き込みの危険性、民間事業者の継続性、自転車専用道路の維持などが挙げられる。

台湾に学ぶ自転車交通計画

沖縄は同じ亜熱帯の島として台湾に学ぶところは大きい。
むしろ国内で実現しやすいのは沖縄で、台湾にできて沖縄にできないことはない。
沖縄は坂が多く、暑く、台風が多く走りづらいという理屈は、
同じ亜熱帯の気象条件と厳しい地理条件の台湾と比較すれば理由にならない。

果たして、
『沖縄全島一周の自転車専用レーン化など提案している計画屋はいるのだろうか。』
と心配になる。

少なくとも、米軍基地返還による広大な新市街地計画では、
当然2輪車レーンの設置は計られるべきで、今後厳しく見ていきたいと思う。


台湾に学ぶ自転車交通計画

セヴンイレブンはサイクル補給基地として、エイドコーナーを設けている。
花蓮市郊外の瑞穂温泉に向かう道路を、数百台の長そで長タイツに身を包んだ
ロードバイクの学生グループが遠足のごとく通り過ぎて行った。
彼らは対向車線の半そで半ズボンのマウンテンバイクで疾走するライダーを、
まるで異星人のごとく見つめた。
こちらはこの国の自転車環境がうらやましく感じられた。

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