2017年08月09日

富士山を体感する

 日本人の好きなものは、桜、富士山、和食と言われるが、海外での日本のイメージは相変わらず、桜、富士山、侍、芸者、ハイテク、アニメとなる。いまだ富士山を知らず、海外の人にも説明できないので、海から歩いてすべてを体感することにした。

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自然・社会環境
 富士山は成層火山で、ユーラシアプレート、北米プレートに接するフォッサマグナにフィリピンプレートが接する三重会合点に当たる。
8万年前の噴火から幾度も噴火を続け、溶岩流と山体崩壊により裾野が形成されてきた。

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地震や津波の危険度が高い地域であり、駿河湾沿いの吉原宿は二度の津波で壊滅的な被害を受けた。現在も東海地震の発生が危惧されており、田子の浦港近くに避難タワーが建っていた。

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たび重なる噴火活動は地下空洞を作り伏流水となり、駿河湾の良港に多くの繊維産業、製紙工業を生む要因となった。

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津波避難タワーから富士の裾野を概観すると、戦後復興は富士山と駿河湾の自然条件が与えてくれたものと理解できる。しかし、その代償は高度成長時代に駿河湾のヘドロ化という公害を生む結果になる。

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 富士市は東西の鉄道軸に対し海沿い集落から放射状に広がったため、市内の道路軸は旧態依然として自然渋滞が各所で起きていた。
市内を5kmほど北に行くと、扇状地は勾配を増していく。富士川が急流であるのは富士山の形成と大きく関わっている。標高300mを越えると宿場町以外の集落はほとんど姿を消し、観光以外はお茶や林業が主産業となる。

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      6合目より愛鷹山、水ヶ塚駐車場 

 富士山の前山のように鎮座する愛鷹山は、富士山の造山活動により生まれたものでなく、富士山より古い存在感のある山である。
このため東名高速道路は南に大きく迂回する形となり、御殿場に続く国道469号はそのバイパスとなっている。さらに廃棄物処理業、林業などの大型車の割合が高い産業道路でもあり、産業の振興が従来の修験の道を様々な意味で分断してしまった。

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       富士山3776ルート縦断図より

 富士山のリゾート開発は、2合目から3合目にかけての標高1000m付近で行われた。リゾート法の成立も後押しし、バブル時代の置きみやげでもあり、静かな高原の雰囲気を残している。現在は朽ちた建物も散在し、別荘の中古物件は1千万円程度からある。

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周囲はスギ、ヒノキ、コナラの2次林の他ブナの原生林も残り、ニホンシカが路傍に見られた。近年はクマの目撃情報も多い。
有料キャンプ場はアウトドアブーム全盛期をすぎても、居住スペースを移しただけのオートキャンプが人気で、芝生から見る富士が雄大だと感じる以外に富士の魅力を伝えることができたらさらに良いと感じる。

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 3合目の水ケ塚からは、良く整備された自然歩道のある樹林となり、ウラジロモミ、コメツガ、カラマツの針葉樹林帯となる。湿気が多く苔の生えるミドリの世界で、木漏れ日の多い下草地にはキノコが多く生えている。標高が高いわりには比較的樹高が高く深い森である。

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富士山にはハイマツの低木帯がなく、5合目を過ぎると一気に火山荒原植生となる。

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      6合目より頂上を望む

富士山は登り口が4か所あり、いずれも5合目まで自動車で登ることができる。特に富士宮ルートは標高2300mまで道路が建設された。高山病の影響が現れ始めるのが標高2400mと言われることと、気候が変わる植生限界が道路を維持管理できる限界点でもあるためである。

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富士山の登山としての魅力が少ないのは、高山植物がほとんどないせいでもある。砂利混じりの河川に適合するイタドリやオンタデが花を咲かせる程度であった。標高3000mを越えるとほとんど岩と砂と雪の世界になる。

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      9合目付近

歴史・文化環境
 富士山は山岳信仰の対象とされてきた。浅間大神を祭る浅間信仰とも呼ばれ、富士宮市の富士山本宮浅間大社が総本宮となっている。なぜ浅間なのか、今の浅間山との関係はなどと考えるとまぎらわしいが、もともと大きな火山をあさまと呼び、あの阿蘇山も同じ呼称であったという。

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        影富士

富士山という呼称は、現在の基本的な山容が形成された貞観大噴火の起きた平安時代と推定される。
浅間神社は富士山周囲に多く、各登山口には各浅間神社が置かれている。

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さらに集落から富士を日常的に拝む下方五社があり、富士市の富知六所浅間神社は浅間大社の別表神社である。コースの都合上こちらを参拝したが、道すがら日吉浅間神社、今宮浅間神社があった。


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富士山の各合目には古い石垣で築かれた山小屋があり、古い鳥居は壊れても今なお信仰の対象となったものもある。


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十合目には浅間大社奥宮の鳥居が待ち受けている。70歳以上は記念の扇子がもらえ、挙式を挙げるカップルもいる。

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火口を回るお鉢巡りは不浄な左を見せないチベット仏教と同じく時計回りが基本とされるが、登山としては強風、濃霧の時は危険なので控えるべきだろう。
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 富士山に詣で入る参道は村山口、大宮口、須走り口、須山口とあるが、地元では古道再編を行っている。富士市のルート3776はその一環であり、ルート上にはのぼりがあり現道を辿ったものでわかりやすい。

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しかし、古道はようやく村山口が紹介されたにすぎない。須山口は世界遺産にも登録されているが、もともと宝永山の噴火ですたれてしまい、辿るのは容易ではない。現在は有志によりルートファインディングが行われているが、現道との交差も多く、従来の地図にないため道に迷うこともあり、整備されるべきだろう。

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 富士山が日本の象徴たる由縁は、富士山を生業とする人の数が多いことである。富士の恵みは戦後の工業、農業、観光を支えてきたことも確かである。一方、富士山の中山間地開発が本来の山の魅力、信仰の道筋をうばってしまったことが世界文化遺産の登録で、際立ってきた。

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 富士を望む都には、本山に参拝するかわりに多くの富士塚がある。下山してから品川神社の富士塚に無事参拝の報告に行った。板垣退助の墓所としても有名で、富士山をイメージさせる築山は都心にあって不思議な空間であった。ここからの富士山は望むべくもないが、富士への思いと憧れは遠く東京からも思い知ることができた。

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Posted by Katzu at 18:21│Comments(0)山の環境
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