2012年11月07日

小さな宇宙

 宮古島の北に大神島という小さな島がある。
この島は先月あった奇祭パーントゥで有名な、
狩俣集落の向いにある伝説の多い島である。
海賊に島の財宝が持ち去られたとか、周回道路の工事が
動かぬ岩のため中止になったとか、様々な逸話がある。

今まで三度行く予定であったが、天候その他の理由で
行くことができなかった。
狩俣の集落の遠見番所という大神島を望む場所に立つ。
ここは、久高島に対する斉場御嶽、の位置付けと同じく、
拝む場所、拝む方向が定められている。
このロケーションが信仰の始まりだったと
確信する気高さがそこにあった。

小さな宇宙

 大神島の観光案内はない。
30年前の沖縄観光ガイドには、宗教の島なので、
観光客は渡らないこと、とだけ書いてあった。
最近はむやみに御嶽に入らないこと、とだけ書いてある。

近年は過疎の島で観光にも力を入れ始めている。
唯一残された学校は閉鎖され解体されていたが、
公園が開かれ、港湾施設も整備された。

 島尻港に着いたのは1時過ぎ。冬時間のダイヤに変わったため
予定を夕方に変更した。フェリーの乗客は3人だけだった。
港に着き、斜面にある集落を通り抜けると井戸があった。

小さな宇宙

ここから上は聖域で、木道以外の森には入れない。
途中、オオコウモリが手の届く所にいた。

 山を登り始めると、ガイド付きのグループに追いつく。
声をかけられ話すうちに、同じ行動になってしまい、
そのペースに引き込まれた。
『島の物はすべて持ち出し厳禁です。通路・公園以外の
場所には入らないで、神聖な所は撮らないで下さい。』

ネットの情報は確かには少ない。
観光客は少なく、海岸はきれいだが、山頂付近には
近くの大岩以外何もなかった、という書きこみがある程度だ。
島の頂上に立つと、そんな疑念も消える。
360度の絶景、エメラルドが光り輝く宮古島から、
濃い藍の色までの海の上の中心にいる感覚であった。
丁度、宮古島と池間島を従え、この地が宮古の中心、
へそではないかと感じてしまう。

『北のリーフ付近のあの海域は、聖域になっており
 島の漁師は近付かない。この風景も記憶にだけに留めてほしい。』
とガイドは観光船のいる方向を示した。

観光客の動ける園路と公園以外は、神聖な森である。
その森にはオオコウモリと点在する風葬跡があり、人の侵入は限られる。
パラオのバベルダオブ島の、吸血オオコウモリの伝説を思い出す。

小さな宇宙

森に住む北欧の悪魔トロールの伝説や、ヤンバルのハブに代表される
害獣のような存在があって、多くの森は守られてきた。

 海には津波で運ばれたと言われる岩に、その後の波と
海面上昇のために引き起こされた、ノッチの形状のものが多くある。
南東の海岸線に楕円形に配列された岩は、公園を囲み森に通じる
自然の拝所のように感じる。

小さな宇宙

 北の道路建設が中止となった地点は地の果てで、
大岩が道をふさいでいた。
これは、うわさ話にあったように岩が重機で動かなかった
のではなく、動かすことができない。
恐らく島の住民が岩の爆破を望まなかったのだろう。

 なぜか見張られているような気分になり、
海には入らなかったが、岸から手を伸ばし水中を写すと、
透視度20mほどの海中に、スズメダイとサンゴが移っていた。
恐らく宮古島よりリーフはきれいであろう。

小さな宇宙

 他人は侵略者で、一つの島で生命も、環境も、歴史も、
完結する世界を守ってきたこの島は、1つの宇宙である。

しかし、島を守るためには、常に環境を変えるものを監視し、
森に住む精霊に島の魔力を託し、外界の力を封じ込める伝承や
島のシャーマニズムを実践していくことが、
唯一残された手段であるのかもしれない。

他の宗教が入り込む余地はなく、パワースポットなどと
呼ばれたくない島である。

小さな宇宙

ガイドの言葉が気になりだす。『写した写真でさえ、
持ち出したために舟が沈むことを、今も信じている人もいます。』

迷信は信じる必要はないが、ネットのうわさや写真だけで、
判断し、興味本位で来るのではなく、
自分の目で見て自分の感性で感じて欲しい、ということかもしれない。

 何もないすばらしい島のひとつだ。


大きな地図で見る



同じカテゴリー(海の環境)の記事
台風が去った海
台風が去った海(2017-09-26 20:56)

辺野古に想う
辺野古に想う(2015-03-15 12:44)


Posted by Katzu at 09:26│Comments(0)海の環境
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。