2013年10月08日

ツーリズムのトレンド

ツーリズムは環境ツーリズムとブラックツーリズムという、新しい観光のスタイルができつつある。

 現在、石垣島のダイビングショップは100以上ある。 これだけのショップが集積する島は
世界中のどこをさがしてもない。ビジネスとして成り立つのかはなはだ疑問でもあり、
海中にはかつてほどの魅力があるとは到底思えない。

ツーリズムのトレンド

スポーツとして発展したダイビングは、インストラクターの安定収入の確保が課題であった。
最大手団体のPADIは、安易な講習修了者増産に切り替えたため、インストラクターの数が
増大したことも、ツアーが増えた原因の一つである。
ダイビングは海中の環境が命であるため、海に致命的なダメージを与える方向には行かないが、
過剰なサービス精神とダイバーの増大は、海の環境を良くする方向には向かわない。

一方で手軽な家族・団体向けのアウトドアツアーも人気となり、石垣島ではカヤックツアーは50、
シュノーケルツアーは45もの会社がある。

 時代は、ただ見て遊ぶスタイルから、体験型のツアーが増え、エコツーリズムが発生する。
環境省ではエコツーリズムの概念を、
『自然環境や歴史文化を対象とし、それらを体験し、学ぶとともに、対象となる地域の自然環境や
歴史文化の保全に責任を持つ観光のありかた』、と定義している。
自然環境との共生を前提に、学習を通じた活動を行うNPO法人の数も増えている。
石垣島ではエコツアーとうたい、集客する会社・団体は現在30もある。

ツーリズムのトレンド

なかには良心的に環境教育を織り込んだツアーや、地域活動に根差したものもあるが、
エコツーリズムの課題と限界も見えてきた。
与えるツアーである場合、受け手の興味が持続しないことがある。
一度マングローブツアーを経験し知識を得ると、慶佐次川では、
前に浦内川で体験したからいい、という人も現れる。
観光客と環境を仲立ちする人の間に、ビジネスとして成立させることが観光ビジネスの宿命であり、
その多くは、環境を切り売りすることで成り立つことに、大きな矛盾を抱えている。

 環境ツーリズムとは、観光客が自分の興味を進んで環境の中に求め、管理者・関係者は
その自然・都市環境を整えることで、観光客を受け入れ、地域全体を相対的に活性化させ、
地域経済に反映させることである。
提供する側の目標は、観光客を自然と街に『もてなしの心』で迎える環境を整えることである。
最近のトレンドでもあるスポーツイベントや、アウトドアイベント、まち歩き、寺社巡り、星空観察、
遺跡・生物探し、ボランティア活動なども、広い意味で環境ツーリズムとしてとらえることができる。
『何もないところが好き』という感性もその一つかもしれない。
これには一定のルール作りと、観光客自身が教養と知識を蓄え、自発的に活動することも必要になる。
専門的なガイドは必ずしも必要としない。

ツーリズムのトレンド

 ブラックツーリズムとは、チェルノブイリの被災地を観光地化する計画からそう呼ばれるようになった。
海外には戦争博物館や捕虜収容所などが観光地として公開されているものも多く、
歴史の真実を伝える重要な観光資源となっている。

観光客は、楽しむ・遊ぶだけでは飽き足らず、実物に触れ、真実を知り、教養を身につけ
総合的な人間力を高める方向に経験を重ねていく。
人の悲しみや苦しみは観光にはそぐわない面もあるが、
真実を知る手段としては、最も実証的かつ論理的な方法である。
東日本大震災の各被災地では、被災建物の保存や復興記念館の創設に様々な意見があるが、
伝え残したものが、防災に結びついたことが大きな教訓として残った事実がある。

観光地がテーマパークや公園や世界遺産などに限定されてくると、
『行った、見た、おいしかった。』だけのツアーや、
単一的な消費型レジャーにもあき、自分で新しい何かを求めたくなる。

今回の西九州の訪問は、日本の近代化の犠牲になった者たちを巡るブラックツーリズムでもあった。

知覧特攻平和館
 映画『風立ちぬ』に共感した者なら、その戦争の真実に出会うと、
当時の日本人としての意識や戦争の重みに思いを詰まらせることであろう。
この施設を世界遺産に、という運動もあるが、たった一つ欠けたものがある。
それは、特攻された側の視点である。
戦争の愚かさと死んでいった者の魂を鎮めるためには、両者の対等な認識が必要であろう。

ツーリズムのトレンド


水俣病資料館
 日本の環境問題、工業の発展、原発問題、に興味を持つ者は一度訪れ、
国や大企業の環境対策がどのように行われてきたか、正しい認識を持つべきであろう。
隣接の広域公園水俣エコパークは環境と健康をテーマに、障がい者の働く公園としても注目されている。

ツーリズムのトレンド


雲仙岳災害記念館
 自然災害の頻発する国で、災害に向きあい、それを体験学習する場としてジオパークは意味がある。
地球環境、地球物理、地質地学に興味を持つ者だけでなく、多くの人が防災の知識を持つべきである。

ツーリズムのトレンド


軍艦島
 日本の工業技術発展の優れた歴史の断面を見ることができる。
工業ビジネスが誤った方向に進むと、人間性を無視した陰惨な歴史を生み出すことも知るべきである。
世界遺産登録前にやるべきことは、まだまだたくさんある。

ツーリズムのトレンド


長崎原爆資料館
 初めて訪れる人は、日本人として知っておくべき原子爆弾の恐怖を知らなすぎる自身を恥じるだろう。
ひとつひとつの話に聞き入ると、悲しみと絶望の中から明るい未来が見えてくるはずだ。
今の原発問題を考える前に大切なことを教えてくれる。

ツーリズムのトレンド

 本来これらの施設を見学するには大きな博物館・美術館と同様に半日は必要であろう。
しかし、多くを理解するには、時間的にも体力的にも感情を維持するのも大変で疲れがドッとくる。
閲覧客の多くはシニア層であるが、最近は若者や家族連れも目立つようになった。
それは取りも直さず、映画で感動する以上の感情を持つこと自体が、ツーリズムである証拠なのである。

ブラックツーリズムは言葉から受ける印象は良くないが、教養を高め、
人生の教訓としながら、本物を求める新しい大人の旅の形でもある。


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