2012年10月12日

沖縄ラビエンスの街

 沖縄の地方には、不思議なラビエンス(迷路)の集落がある。
与勝半島の内間・平安名(へんな)周辺の集落は、
街路の形状が複雑で、一度も車で入ったことがなかった。
地図で確認すると、この街はこれまで見たことのない
街路パターンの集落であった。


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 この集落の特徴は、
細胞が増殖されたように三叉路や変形交差点が多い。
車1台分の狭い道路が多く、広い道路は途切れ、道路幅員は一定していない。
街区の形は小さく、方角も一様でない。
所々に中心となる広場のようなものがある。
周囲は農地で、集落内の空閑地は、比較的担保されている。
このへんな集落は、およそ都市計画とは無縁の
本土にはありえない集落形態なのである。

沖縄ラビエンスの街

 その集落は、勝連半島の北海岸から、さとうきび畑をぬけた高台にある。
自転車で、街を一回りすると、その理由がわかってくる。
細街路が多い集落の中にあって、勝連小学校の裏通りだけは幅員が広く、
集落内の車の多くは、ここに駐車している。
まるでスーパーブロックの駐車システムのようだ。
しかも路肩の横列駐車というのは初めて見た。
恐らくこのパターンは、急勾配のサンフランシスコの坂道の住宅地くらいだろう。

沖縄ラビエンスの街

石垣はブロック塀に変わり、宅地は両側を道路に挟まれた正背路線地も多い。
通過交通の発生しない狭小道路では、自宅前に駐車するパターンさえ見られた。

沖縄ラビエンスの街

道路は三叉路が基本で、沖縄では一般的な『石敢當』の文字を煩雑に見かける。
ある交差点では、『石敢當』の石板が3つもあった。
突然道路が公園(記念碑)で二分されたり、幅員が急に狭くなる地点も多い。

沖縄ラビエンスの街

集落の中心ブロックはやはり祭事の中心であり、
かつての御嶽は、公園や拝所、駐車場になっていた。

沖縄ラビエンスの街

内間集落の南側の入口には神木があった。
集落内には埋蔵遺跡群があり、御嶽や神木も重なるように
集落の主要な6~7か所にあり、不整形な街区ができた原因となっていた。

沖縄ラビエンスの街

都市環境アセスをすると、狭小道路率が高く、不整形宅地が多く、
不足環境要素、阻害環境要素が多いため、面的整備が必要になってしまう。

沖縄ラビエンスの街

 この集落の歴史は古く、海岸までは1km程度であるが、周囲は広い農地である。
海側の屋慶名や平敷屋の海人の集落に対し、平安名や内間集落は高台にあり、
勝連城にもつながりのある畑人の集落であった。
当時、勝連は琉球王朝に対抗する一大経済圏であったために、
近隣の集落は、文化的にも豊かな生産・生活拠点であったと考えられる。

沖縄ラビエンスの街

戦後は、ホワイトビーチの米軍基地の需要もあり、県道8号沿いに集落が
拡大したために、もとの農村集落が変貌していったと推測される。

沖縄ラビエンスの街

街づくり屋は何をやればよいか。
基本的には何もできない。

 古琉球の集落は、風を逃がし、風水に基づきや集落の中心や
入口に御嶽を配し、魔除けの三叉路を増やした。
本土の島の集落には、海賊対策として、迷路を多用した例も多いが、
祭事を優先させた沖縄の集落とは歴史背景が異なる。
沖縄ラビエンスの街
            小豆島土庄町

景観だけでなく地震の危険を考えれば、ブロック塀は良くないが、
風対策には止むを得ないものがある。

沖縄ラビエンスの街

 この集落の魅力は、少し勾配のあるゆるい道路曲線に
琉球民家があったり、その先から海が遠望できる集落景観と、
近所衆が、5分以内で歩いて集まることのできる公園(御嶽)が
町の中心にあることである。

沖縄ラビエンスの街

その公園にはこんな素敵なガジュマルのトンネルの入口があった。
ガジュマルという木は、時々不思議な生命力を表現してくれる。
個人的に、公園の自然木の景観大賞としよう。

沖縄ラビエンスの街

 生活に不便な街路システムにしても、
通過交通のない静かな環境を提供しているではないか。
沖縄でもこのような集落は少なくなってしまった。

沖縄ラビエンスの街

 特に重要文化財がなくても、
国の補助事業など使わなくても、
普段の変わらぬ環境の中に、
他の街にない魅力を感じていてほしいと思う。



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